代官山音楽院、管楽器リペア科で行なわれる実際の授業を追いながら、代官山音楽院主任講師の金澤恭悦先がリペアの基本、そして技術が現場にどのように活かされているかを解説してもらうこのコーナー。最終回は授業の総仕上げ参加企画「楽器リサイクルプロジェクト」についてです。
リペアの一連のカリキュラムを終えると、最後に総仕上げとして島村楽器が主催する「楽器で世界を笑顔にしよう~楽器リサイクルプロジェクト~」という企画に参加します。
このプロジェクトは お客様のご自宅に眠る不要となった楽器・壊れた楽器をお預かりし、代官山音楽院にて楽器の点検・修理をし、開発途上国や国内の児童養護施設の子どもたちに音楽で笑顔になってもらいたいという願いを込めたものです。学校で学んだことを、いざ実際の現場で仕事として実践する前に現場を想定した体験ができるというのは非常に貴重な経験ですし、学生たちにとって自分で自分の成長を実感できる場にもなるため、現場に出る心構えができます。
普段の授業では、あえて楽器の状態を崩して修理の授業を行っていますが、壊し方のパターンが決まってしまうこともあります。リペアの現場では想定外の壊れ方をした楽器の修理を依頼される場面も少なからずあります。その準備として様々な状態の楽器が集まる「楽器で世界を笑顔にしよう~楽器リサイクルプロジェクト~」に参加することは、学生たちにとって非常に良い機会です。
楽器を修理する際に形はもちろんのこと、“音を直す”ことが一番大事なことですから、しっかり音が鳴る状態にしてお客様にお渡しします。授業とはいえ失敗してもよい修理ではなく「その先にお客様がいる」ことを想定して現場同様、概算見積書を作り、実際に作業内容や予算、納期を設定するといったことを併せて行い、部品や作業にかかるコストの意識を持ってもらうようにしています。できるだけ短い時間で良い仕事ができるとお客様にも喜んでいただけますからね。
また、技術職に就く学生ばかりではないので、例えば楽器店の営業になっても勉強したことが活かせるように見積書の書き方なども学んでいます。
ステージで演奏しているプレイヤーの素晴らしい演奏に自分が陰でサポートとして応援できていると思うと、こんなやりがいのある仕事はないですね。ひょっとしたら人に感動を与えているかもしれない。いつか代官山音楽院の学生たちにもそうなってほしいですね。
Profile|金澤恭悦
69年日本管楽器(株)入社。日本楽器製造(株)(現ヤマハ)と合併後、本社にてクラリネットの開発に携わる。77年に開設された「ヤマハアトリエ東京」の初代スタッフとして木管楽器の専門家対応を22年間担当。特にサックス奏者ソニー・ロリンズ氏からの信頼は厚い。更に北米の修理技術を視察、アジアにおいても技術指導を行なうなど海外でも活躍。現在は代官山音楽院主任講師、リペア工房atelier kanazawa主宰。