代官山音楽院、管楽器リペア科で行なわれる実際の授業を追いながら、代官山音楽院管楽器リペア科主任講師の金澤恭悦先生にリペアの基本、そしてその技術が現場にどのように活かされているかを解説してもらうこのコーナー。第2回からはいよいよ実際の授業の様子を追っていきます。まずはサクソフォンを分解していきますが……分解するまでの準備も、いろいろあるんです!
分解に入る前に、授業ではまずバネ掛けなど工具の使い方と作成を学びます。図面を見ながらヤスリがけをして、キィにかかっているバネを掛けたり外したりするためのバネ掛けを自分で作成します。その後ドライバーもネジに合うように平らに削るのですが、これが難しい。完全にフラットに削らないと、ドライバーが滑ってしまいます。バネ掛けもドライバーも、楽器ごとに合う工具を作成していきます。
さらに、サクソフォンにまつわる楽器の歴史も教えています。特にフルートのために開発されたベーム・システムは、サクソフォンにとっても大変重要です。1本の指で複数のキィを操作できるキィメカニズムの発明と、オープンシステムの採用は革新的なものでした。
ここまでやって、やっと分解の授業が始まります(笑)。修理をするのはお客さまの楽器ですから、決して傷つけてはいけません。これはしつこいほどに繰り返し生徒たちに言っています。さらに緊張感を持ってもらうために、生徒たちには新品の楽器をお渡ししています。しかし、どれだけ気をつけていても、慣れていませんから傷つけてしまうんです。卒業する頃になれば、ずいぶん傷つけていたな、とわかるようになるでしょう。
タンポがついているのはキィ、タンポのついていないのがレバーということや、鍵棒ネジと芯金の解説など初歩的な部分から解説を始めます。
今の段階では手袋はさせません。まだ慣れていないうちに手袋をしてしまうと、楽器を落としてしまう危険性が高まります。経験豊富なリペアマンになると、楽器を支える手だけ手袋をすることもありますが、今の段階ではしっかり指紋を拭き取る技術を身に付けることが肝心です。完全犯罪を狙いましょう(笑)。
さらに楽器を置くときは必ず敷物をし、分解したキィは重ねて置かない、机の上は常に整頓する、という基本的なことを習慣づけていきます。
右手の部分まで分解するとキィの連動が把握できます。「ベームさんってすごいんだな」ってわかるんです(笑)。
Profile|金澤恭悦
69年日本管楽器(株)入社。日本管楽器製造(株)(現ヤマハ)と合併後、本社にてクラリネットの開発に携わる。77年に開設された「ヤマハアトリエ東京」の初代スタッフとして木管楽器の専門家対応を22年間担当。特にサックス奏者ソニー・ロリンズ氏からの信頼は厚い。更に北米の修理技術を視察、アジアにおいても技術指導を行うなど海外でも活躍。現在は代官山音楽院主任講師、リペア工房atelier kanazawa主宰。