アガっても普段に近い演奏をするために
普段は上がり症じゃないのに、ステージに立ったら唇はブルブル、足はガクガクすることありませんか? 人前で演奏するときに急にアガってしまったり、緊張のせいで演奏が上手くいかなかったり……よくあることなんです。でもなるべくなら普段通りに演奏したいもの。そこで、今回は雑誌「THE FLUTE 136号」に掲載した「今日からアガらない! フルート奏者の本番力入門」の嶋村順子さんの記事を再構成して、吹奏楽器奏者に役立つ記事をピックアップします。
もうブルブルしない! 唇の当て方
フルートはリッププレートに唇を当てるだけ、だからアガってしまうとブルブルしてしまう……、金管楽器も唇がブルブルすると音にすぐ影響する……、マウスピースをくわえるサックスやクラリネットだって、緊張すると唇のコントロールがきかない、パーカッションだって手が震えて上手く楽器が鳴らせない……、普段の練習では上手くできていることが、ステージに立ってスポットライトを浴びると、急にアガってしまう経験はあるでしょう。
フルーティストで、アレクサンダー・テクニーク講師である嶋村順子先生は、次のような対処法を教えてくれました。
「上手く吹けている時、唇にリッププレートが当たる圧力の度合いは、おそらくとても少ないと思います。が、緊張すればするほど無意識に楽器を唇に強く当て、唇が震え出したらますます押し付けることでしょう。その結果、もっとも繊細に動いてほしい息穴が押しつぶされてしまいます。
もしこれに気づいたらぜひ試してみてほしいのが、『唇から歌口をどんどん離してみよう実験』です。もちろん唇に接していないと吹けないので、接点の圧力を減らしていくということです。唇にかかっている圧力を徐々に減らし、歌口が唇に触れているかいないかのところまで少しずつ離していってみます。『アガっている最中にそんなことできない』と思われるかもしれませんが、やってみるとなにか発見があるかもしれません。
─(中略)─
まずは『頭が繊細に動けて、自分のカラダ全部が協力してくれる』と思いながら、次に“震え”を怖がって無意識にやっている「歌口を唇に強く押しあてること」を、意識的に手放してみてください。
私は本番中にこれをやることで、“震え”や“鳴らしにくさ”と格闘する時間がだいぶ短縮されました。
どうでしょう? アガってしまうと無意識のうちに無駄な力が入ってしまうことはフルートに限ったことではないですよね。適度な緊張は演奏に良い影響を与えてくれますが、過度なアガリは力が発揮できない……という結果につながります。
そこで、意識的に力を抜くようにしてみてください。それでも力が抜けない……という場合は、“これ以上力が入らなければいいや”ぐらいに軽く考えてみましょう。すると少しカラダの力を抜くことができるのです。
アガリ攻略法! 足を味方につけよう
力が入るのは唇だけではありません。ソロや苦手な箇所が近づいてくると、体の中で何が起きているでしょうか? 嶋村先生のアドバイスを続けましょう。
「自分のカラダに何が起きているかを『観察』してみましょう。首、肩、腕、胸の上のあたりなどに、あれ? と思うほど力が入っているかもしれません。
無意識に力んだまま苦手な箇所に突入してしまう前に、新しい対応プランを使います。あらためて『頭が動けることイメージして、カラダ全部の伸びやかさを意識』します。そして固まっているのに気づいた箇所を緩めてあげましょう。」
──では具体的にどうしたら固まった部分を緩めることができるのでしょうか?
「『しっかり立とう、しっかり吹こう、しっかりお腹で支えよう』という考えは良いことですが、時々この考えによって脚が使えない状態になる場合があります。脚や腹筋に力を入れ続けることで、股関節がロックされたように動きにくくなってしまうのです。股関節が動かないと、姿勢のバランスだけでなく呼吸までもがギクシャクしてしまいます。股関節、膝、足首の3つの関節をふんわり緩めて、姿勢の繊細なバランス調整に下半身を参加させるように立ってみましょう。このほうが楽に演奏できるはずです。緊張して「下半身が固まっているな」と思ったら、2~3歩あるいてみたり、左右の脚に交互に体重移動をして下半身の関節を緩めてあげてください。このように“脚を演奏に参加させる”ことで、全身が協力してくれるようになります。」
吹奏楽の場合は、座って演奏することがほとんどですから、アガってしまっても歩くことは難しいでしょう。嶋村先生は股関節に力を入れなければとアドバイスされていますが、具体的にどうしたらよいのでしょうか。何か方法がありそうです。
サックス奏者の原ひとみ先生は雑誌「THE SAX」で「Let’s try together! 原ひとみ先生の誌上レッスン」という連載を長い間担当してくれましたが、その中で座奏のときに力を入れてもいい場所は足の裏だと語っていました。
ひとみ先生自身、演奏がうまくいかないときは足の裏を意識しておらず、逆に足の裏でしっかり大地(床)を感じて演奏すると上手くいくことが多いというのです。例えば股関節に力が入っている状態で、脚の裏に力を入れることはできるでしょうか? 実はこれがけっこう難しい、というよりできないのです。人間の身体はどこかに力を入れると別の部分には力が入らないようにできています。
このように力が入る部分を意識すると、アガリが少しだけコントロールできるようになるかもしれません。
それでも震えちゃった!どうしよう
でもやっぱり震えてコントロールできない……こともあります。
「緊張したときの唇の震えには2種類あります。
① アドレナリンによる生理的な変化によるもの
② 震えた状態を無理に抑えこもうとして力が入った結果、さらにコントロール不能になったもの
「アドレナリン自体は『応援団』として捉え、震えを含めたカラダの変化を受け入れてみることをおすすめします。『震えちゃダメ!』と抑えこむのは逆効果。『震えてもいいからこのエネルギーを利用しよう』と受け入れることは、自分の身体に起きていることを肯定することになります。
まずは『頭が繊細に動くことができて、自分のカラダが全部協力してくれる』と思う。そして 『自分に起きている変化は当然のこと。震えてもいい。ダイナミックに演奏していれば、そのうち収まってくれる』こんなふうに意識し続けたら、いつもより“震え”が早めに遠ざかってくれる可能性はずっと高くなります。
また緊張してきたら『自分のどこにどんな変化が起きているのかな』と、ただありのままを観察してみてください。」(嶋村)
まとめ
今回はアガってしまったときの対処法をご紹介しました。あっ、でも待って! しっかり練習していることは大前提です。練習していないからアガったというのと、練習はいっぱいしたのにまだ苦手な部分が残っている……というのは別物です。今をときめくプロ奏者の皆さんも、ほとんどの方がアガリを経験して、克服しています(今も闘いながらステージに立っていらっしゃるひともたくさんいます)。プロ奏者の皆さんが口をそろえて言うのは、「これ以上練習はできない! もう充分やりつくした!」と思うぐらい練習をすることがアガリ克服の第一歩です。みなさんもアガリ症をふっとばすような練習をたくさんして、いい演奏を目指してくださいね!
Profile 嶋村 順子 Junko Shimamura
フルート奏者・フルート講師、BODY CHANCE認定アレクサンダー・テクニーク教師、武蔵野音楽大学卒業。NHK洋楽オーディション合格、NHK・FM放送出演。フリーランスのソロ、室内楽奏者として演奏活動を行なう。三浦由美、吉田雅夫、播博、ローラント・コヴァーチの各氏に師事。これまで公立高校芸術科非常勤フルート講師、音楽教室講師、フルートアンサンブル指導、吹奏楽指導など、後進の指導にもあたっている。編曲も手がけ、『チャイコフスキー「くるみ割り人形」~2本のフルートとピアノ』『ビゼー歌劇「カルメン」名曲集 ~2本のフルートとピアノ』(トリム出版より)などを出版。 ブログ「フルートとアレクサンダー・テクニーク」連載中
http://ameblo.jp/espressivo1214/