夏のコンクールが終わると、休む間もなくアンサンブルコンテストの時期がやってきます。アンサンブルでは一人ひとりの奏でる音が合奏に比べてよく聞こえます。だからといって、変な音を出したくないからと縮こまって吹いてしまってはもったいないですよね? 気持ちよくアンサンブルできるようになるためのキーワードは……「耳」!
コンクールが落ち着いた今だからこそ、自分の音、そしてお互いの音をよく聴けるようになって、楽しくアンサンブルできるようになっておきましょう。雑誌「The Clarinet 44号」に掲載した「特集 耳を鍛える!」内の木原亜土さんと原ひとみさんの記事を再構成して掲載します。
まずはクラリネット奏者の木原亜土さんが、なぜ「注意して聴く」ことが重要なのかを、あの有名な絵本「ウォーリーをさがせ!」を例に出しながら教えてくれました。
新しい曲に取り組む際、CDなどの音源を聴くことは、お手本としてはもちろん、自分が演奏する以外の音を事前に確認するのに非常に有効であることは言うまでもありません。しかしながら、何の準備もなく繰り返し聴き続けていたとしても、よほどの聴覚、経験、勘でもない限り、漠然と聞き流すだけに終始し、スピーカー(ヘッドホン)から溢れ出る膨大な音の中から「知っているべき情報」を探し出すことはできないのです。
我々は練習の初日を迎えるまでに、繰り返し総譜(スコア)を開き、様々なことをチェックします(曲の構成、場面ごとの自分の役割、ハーモニー等……)。その中でも特に重要なのが、自分と同じ音を持っているパートをあらかじめ知っておくこと。これらはあらかじめスコアに 目を通しておかないとわからないことですが、一度目でチェックし、頭で理解した後に、スコアを見ながら「自分の聴きたいパート」に耳を傾けるつもりで、もう一度音源を聴いてみましょう。
するとどうでしょう? 事前にチェックし知っているというだけで、聴きたい音が耳に入って来ませんか? 「ウォーリーをさがせ!」で例えると、まるで「ページの右下あたりにいるよ」とあらかじめ聞いたうえで、ウォーリーを探し出すようなものなのです!
音はそこで鳴っているからすべてが聞こえるのではなく、こちらがそこから「何を聴こう」と目星を立てて聴いたときに、初めてその細部や特徴に気付き、「聴く」ことができるのです。
「注意して聴く」ことの重要性がわかったところで、「じゃあ、どうすれば耳が鍛えられるの?」という疑問に答えてくれたのが東京吹奏楽団のサックス奏者 原ひとみさんです。
みなさん、こんにちは! 東京吹奏楽団のサックス奏者、原ひとみです。今回は管楽器奏者のみなさんにぜひ知ってほしいテーマ、集中して聴くこと、“耳”を鍛えるということをお話ししていきます。
耳が良くなると音楽をより深く美しく感じることができるだけでなく、自分の音や演奏を向上させることができます。練習の取り組み(吹き方の工夫)によって、音のちょっとした変化に気づき、良い音が出たときの状態を注意していくうちに、常に良い音を保つことができるようになるからです。せっかく良い音を出せていても、それに気づかないとどうやって音を出したのか、確かめられません(もったいな〜い!)。
管楽器は自分で音程を作っていく楽器ですから、耳が良くなれば自然と音程やピッチを合わせることができます。吹奏楽でのサックスは時にはユーフォ、時にはクラリネット、時にはホルン……といろんな楽器とユニゾンやハーモニーを演奏しなければいけませんが、それぞれの楽器にも音程の特徴があります。そんなとき「サックスはもともとミの音が高めだから仕方ない」とすませてしまっては、良い演奏にはなりません。常に自分の音を聴き調整し、また他の音を聴いて“合わせよう”と強く意識することが大切です。お互いに“寄り添う”感覚をもって吹けば不思議と音程が合ってくるのです。この感覚は最初はわかりにくいかもしれませんが、必ずわかるようになります! 合ってきたときは体からも余計な力が抜けて、自然に音が鳴らせている状態なのです。
合奏前のチューニングでは、チューナーにかじりついてピッタリ合うまでやらないといけない、と思っている人も多いようですが、「これぐらいなら音楽的に合わせられる」ぐらいの平均値でチューニングし、あとは聴いて合わせるという柔軟性が大切です。
私は基本的には良いサウンドを出すための奏法と正しい音程を維持する奏法は、同じ奏法でできると思っています。つまりきちんとしたサウンドを出せれば、音程も合ってくるということです。そしてきちんとしたサウンドを出すためには、“良い耳”を持つことが必要なのです。
ではどうやったら、耳が良くなるのか……?
それは“よ〜く聴く”ことです。「聞こえている」ではなく、『集中して聴く』ことです。いろいろなトレーニングが考えられますが、今回はその中の一つ“まねっこ遊び”をして聴き取る力をアップさせましょう!
まずはじめにAさん(先輩や指導者、お友だち。いない場合はあらかじめ自分で録音したものなどを用意して)が、楽譜を見ながら吹きます(q=72〜120)。Bさんは楽譜を見ないで、Aさんの吹いたものをそっくりそのまま模倣します。そうです! “耳コピ”ですね! 同じテンポを感じて流れの中で行なってください(即時反応)。
三段階に分けてありますので、一段階ごとに少しずつ慣れながら進んでいってくださいね。
最初からうまくいかなくても気にしないで!! 遊び(ゲーム)感覚で行なってください。 もちろん、Aさんが他のリズムやメロディを独自に考えて行なってもかまいません。どんどん創作にチャレンジしてみるといいですね!
“集中して聴く”という経験を積み重ねていくうちに、徐々に『耳のアンテナ』が伸びてきますよ!
The Clarinet 44号では、木原亜土先生によるさらに具体的なクラリネットの奏法に関する記事や、原ひとみ先生のまねっこ遊び用の譜例も多数掲載しています。より詳しい記事を知りたい方はアルソオンラインへ!
>> ザ・クラリネット vol.44