写真はすべてインドネシア・ジャカルタ公演のもの。©The Japan Foundation, Jakarta
2015年度アジア・文化創造協働事業の一環として、日本と東南アジア各国において音楽を志す気鋭の若手ミュージシャンたちによる「アジアン・ユース・ジャズ・オーケストラ」(以下AYJO)が、国際交流基金アジアセンターの主催で結成された。11日間に亘る合宿を東京で行ない、東南アジア各国、そして来年1月には東京でその成果を発揮するコンサートを開催する。言葉の壁はあっても、音楽を愛する気持ちに国境はない。彼らの若きエネルギーがほとばしるジャズに触れられる機会となるだろう。
8月21日から始まった合宿も日程を終えようとしていた8月末、彼らの合宿所となっていた東京・代々木に足を運んだ。当日のリハーサルは順調に進んでおり、リハーサルルームのドアを開けた途端、熱いサウンドに包まれた。
このオーケストラのディレクターを務める、ジャズトロンボーン奏者の松本治氏がタクトを振り、その横でジャズピアニストで、同じくディレクターを務める片倉真由子氏が音に耳を澄ませ、指導に当たっていた。
この事業は日本と東南アジア各国の若者たちが、AYJOの音楽活動を通し、成長すること、そしてアジアにおける文化事業のさらなる発展を目的としたもの。参加者たちはオーディションを経て選ばれた将来有望な若手音楽家たちだ。参加者は日本、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシアと多国籍の28名。
AYJOの特徴は集中的な合宿、豊富な講師陣が挙げられる。初めて顔を合わせた者同士が、10日あまりの合宿で交流を深めていく様は、今後の音楽界を担っていくであろう彼らがグローバルな活躍を予感させる。もう一つの特徴である豊富な講師陣は、先に掲げたディレクターの2人を始め、エリック宮城/高瀬龍一(Tp)、中川英二郎(Tb)、小池修(Ts)、山田拓児(As)、谷口英治(Cl)、太田朱美(Fl)、井上陽介(Bass)など、日本を代表するミュージシャンたちから特別レッスンを受け、個々の演奏技術の向上を目指している。
東京での合宿を終え、メンバーたちは一度自国に戻り、9月中旬より東南アジア公演を、インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、マレーシアの5カ国で行なった。そして来年1月に日本ツアーが行なわれる予定だ。
彼らの光り輝くエネルギーを間近で体感してほしい。
中山拓海(Soprano & Alto Sax, Concertmaster)
インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、マレーシアそして日本から集まった28人のメンバーがASEANと日本をツアーする。おそらくアジアの若い世代が一つのバンドとしてジャズを通じて交流するのは初の試みだろう。
僕は今回コンサートマスターとして参加することになった。 言語の違い。バックグラウンドの違い。メンバーの中にジャズを初めてやるメンバーもいる。そんな中で音楽をすることはとても難しいように最初は思った。しかし少しすると、音楽だからこそそういった問題も越えられるという確証が得られたのだった。
共通言語は基本的に英語で進んでいくが、実際に耳を使って音楽をすれば言葉すらいらないんだということを改めて知ったのだった。
言葉だけでなく、文化の違い、生活習慣の違いや価値観の違いもある中で、音楽を通せば繋がれるんだということを綺麗ごとでなく僕らは肌で感じている。そして気付くことはお互いの違いだけでなく、アジア人としての共通項である。みんなどこか仲間意識があるというか一緒に動くのだ。
リハーサルやコンサートを経るごとに、メンバーそれぞれが悔しい思いや辛い経験もしている。ツアー中、四六時中一緒にいるからどんな人間なのかもすごくよく見えてくる。人同士がお互いを感じて生活して、イイとこもイヤなとこも人間が見えてきて、これこそ音楽をするということなのだなと僕は感じる。その中で支え合い、励ましあい、刺激を受け、お互いの成長を感じる。バンドそのものが、まるで生き物みたいだ。
また音楽的に完成されたものをツアーで作っているというより、常に進化しているという感がある。いいところまでいったリハーサルやコンサートがあってもその次にまた同じところにいくのではなくトライし続ける。これが魅力であり僕たちがAsian Youth “Jazz” Orchestraとしてやっている理由なのではないだろうか。
今回のツアーでは、ジャズが発祥した時代のニューオリンズのものや、デュークエリントンの作品がリスペクトを持ってプログラムに織り込まれている。その上でメンバーのオリジナルであったり、自分たちの国の音楽が大きな要素として含まれている。 ジャズを通じて出会った僕たちは、今までになかったような編成で、アジア人としてアジアから世界へ音楽を発信していくことを意識し始めている。
その意識と共に、どんな上手い学生バンドにもない上質な生々しさと、どんな経験を積んできたプロのバンドにも出すことの できない柔軟性で音楽の本質に迫りたい。
池本茂貴(Trombone)
私自身音楽演奏を日本以外でしたことがなかったので今回のこのツアーが非常に楽しみでした。
実際インドネシアで2公演を終えたところ、観客の方々の暖かさに驚きを隠せませんでした。多くの歓声、そして曲中やソロ中に聞こえてくる数々の指笛、最後の最後にはスタンディングオベーション。日本ではあまり見られないもの、また経験できないものを体験することができました! ライブ後にホールのロビーでメンバーと写真撮影・握手といったまるでプロになったかのような体験までできました。
また、PA(音響)さんや照明さんも素晴らしく、私たちが最高のパフォーマンスを行なうことができるのもこの方たちのおかげであると言っても過言ではありません。
このツアーでは、どの国でも音楽は愛されていて、やはり音楽は世界共通言語であるなと改めて実感させられています!
伊吹文裕(Drums)
中学・高校と吹奏楽をやっていた頃から憧れていたビッグバンド。合宿と東南アジアツアー序盤を経て、ビッグバンドのみならずドラムの役割・責任をたくさん考える日々を過ごしています。大きな編成で毎日演奏をすると、僕次第でバンドの演奏がまったく変ってしまうということも痛感しました。それも各国から集まったとても優秀な同世代ミュージシャンのおかげです。特にラテンパーカッション2人の、世界中のリズムの理解度の深さと素晴らしい演奏技術は本当に衝撃的でした。空き時間や移動中はお互い好きな音楽の話で盛り上がっています。王道 なジャズからまったく知らないもの、HIATUS KAIYOTEやSNARKY PUPPYなどやはり同世代だなと思うものまで様々です。日々メンバー全員がチャレンジを続け、時にくだらない話もしながら仲良くなり、とても良いバンドになっています。 各地でスタンディングオベーションをいただき大変な盛り上がりを見せています。日本公演もぜひたくさんの方々に見に来ていただけることを願っています。