来年度4月から「島村楽器テクニカルアカデミー」と改称することに合わせ、日本で唯一「コンサートパーカッションリペア科」を新設する代官山音楽院。本格的なリペア・メンテナンスだけでなく知識、社会性・音楽性をも身につけることができる新学科の開講に先立ち、主任講師の田中覚先生に「楽器別リペア・メンテナンスについて」お話しいただきました! 第2回目は「バスドラム編」です。
バスドラムはティンパニと違って、中が空洞ということもあり、本体の重量はそれほどないので枠(以後フープ)を持ってもさほど変形することはありません。スタンドのタイプ別では、X型タイプの場合、本体のフープを持って運んでも問題ありませんが、古い楽器の場合、ごく一部に皮(以後ヘッド)とフープのサイズが微妙に違ったり古くて変形したりしているものもあるので、そのような場合は持ち運びでフープがずれてしまわないよう、注意が必要です。
下3点のゴムに乗せて1点をフックで固定するキャスター付きのタイプの場合、スタンドに楽器本体を乗せたまま運ぶと振動で落下する場合がありますので、本体とスタンドを別々 に運ぶのが良いでしょう。
直接もしくはゴムベルトなどで固定されている回転スタンドの場合はキャスターベースの4点を4人で持つと楽に運べますが、その際回転軸のブレーキがしっかりかかっていることを必ず確認してください。
バスドラム側に付いた棒状の金具(軸)を上下で挟んで、本体とスタンドを固定しています。挟んでいる側のくぼみには細かい溝が彫られていますが、実はこの部分には溝なんてなかったんです。元々はキズ一つなかったのに、使っていくうちに上下両方とも溝が彫られてしまったのです。
ではどうして溝が彫られてしまったのかというと、金具を緩めないまま締めた状態で楽器の角度をグリグリ動かし、角度を無理やり変え続けた結果、いくら締めてもその溝に沿って軸がまわってしまうようになってしまったからです。
最近では軸回りにABS樹脂(プラスチック)を使用したものもあります。これだと締めたままでも角度を調整することができ、かつ壊れにくいです。
左:金具のくぼみに細かい溝ができてしまっている/右:ABS樹脂でできたものは傷ができにくい分、軸が太く音色も硬くなる
楽器本体には問題がないのに、斜めに固定できないからと楽器本体ごと買い換えることも多いです。
確かにどの角度にも固定できないと演奏もできないので仕方ないですが、まだ使えるのにもったいないですよね。そうなる前にリペアに出しましょう。
ちなみに、バスドラムを乗せて傾けられるスタンドの中には軽量の物もあり、これらは演奏時の振動で脚の一部が浮いてしまうものもあります。そうなると低音楽器にはマイナスに 作用することがありますので、土台がしっかりしたスタンドや重量のあるスタンドを使ったほうが良かったりします。
逆に堅牢すぎて楽器の振動を抑制してしまうスタンドもあるので選択は意外に難しいですね。
今回の話、楽器本体に注意しようというよりはスタンドに注意しようという感じですね(笑)。
Profile|田中 覚
1993年4月から2007年9月まで株式会社コマキ楽器パーカッション・シティに勤務。この間、新日本フィルハーモニー交響楽団の近藤高顯氏にティンパニ演奏とティンパニマレット・リペア、作成を師事。2007年9月より打楽器リペア業務を主としたマチュア・パーカッションを立ち上げた。2008年~ 2014年の7年間、札幌で毎夏開催されているPMF 音楽祭で使用される全打楽器の保守管理やセッティングを担当。国内外の多くの奏者や専門家と交流を持つ。