解説:三浦幸二(クラリネット奏者・指揮者)
武蔵野音楽大学卒業後、東京での演奏活動を経たのち渡独。帰国後は主にソリスト、室内楽奏者として活躍。ソリストとして中華民国空軍楽隊(台湾)、Nontri Orchestra Wind(タイ)、HKBDA Wind Orchestra(香港)をはじめ海外で数多くのバンドとの共演を果たし好評を得る。指揮者としては、2013年にNTUシンフォニックバンド(シンガポール)を指揮して、海外での指揮者デビューを果たす。国内外での音楽祭にも多数招聘され、2017年にアルメニア共和国の首都エレバンで開催された「アレクサンドル・アルチュニアン 国際ウインドフェスティバル」では、アルメニア国立歌劇場管弦楽団のメンバーとブラームスのクラリネット五重奏曲で共演し話題となる。CDレコーディング参加や音楽雑誌への原稿執筆、編曲作品の提供等、各種メディアへの露出も数多い。これまでにホフストラ大学(アメリカ)、カセサート大学(タイ)、南洋工科大学(シンガポール)など世界各地で教育活動を展開。今後国際的な活躍が期待される演奏家の1人である。チェコの新興クラリネットブランド "RZアーティスト" 使用楽器は RZ "BOHEMA STAR" GOLDEN EDITION。「人気楽曲 完全アナリーゼ」第1回パート2は、前回に引き続きヤン・ヴァン=デル=ロースト氏の作曲された「カンタベリー・コラール」です。これまで永く愛されてきた名曲の楽譜における謎にも迫ります。
前回のアナリーゼで、
「16小節目4拍目のユーフォニアムのGes音(G音ではない)は非常に特徴的ですので、丁寧に扱ってほしいですね」
と書かせていただきました。実際にオランダのデ・ハスケ社(現在のハル・レナードMGB)から出版されている楽譜には該当の音符はGes音で書かれていることから、和声進行としては少々違和感があるものの、敢えて特徴的に書いたものと解釈してそのように書かせていただきました。 しかしその後、この和声進行がどうしても気になってしまい、念のためいくつかの団体で演奏されている音源を確認してみました。するとスコア通りGes音で演奏されているものの他に、なんとG音で演奏されているものが存在しており、しかも作曲者自らの指揮による演奏でもG音で演奏されていたため、真相を探るべく作曲者ご本人に聞いてみました。ちなみに私が確認させていただいた作曲者自身の指揮による演奏は、大阪市音楽団(現 Osaka Shion Wind Orchestra)の演奏による「ヴァンデルローストの世界~自作自演集~交響詩スパルタクス」(FOCD-9181)です。
実際に該当の音符をGにして演奏すると、和声進行に違和感がなく自然な流れとなることが分かります。直前の15小節目で確認すると、確かに上行形ではGが使われています(ただし下行形ではG♭)。
しかし、次の17小節目からAs durの旋律が開始されることから考えると、直前の音符はAsの導音という意味合いからもGが自然な選択となります。このあたりがアナリーゼの奥深さの一つでもありますね! 明解なロジックを基本としつつも、音楽の大きな流れの中での理解も大切です。
吹奏楽の世界では、演奏する作品の作者が同じ時代を生きていることが少なくありません。楽譜における疑問点がある場合に、様々な手段方法を用いて問題解決のために努力することはもちろんですが、その作品を作り上げた作者(作曲家)やそれを管理する出版社などに、勇気を持って疑問をぶつけてみるのも良いのではないでしょうか。折角同じ時代を生きているのですから!
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