2015年から2017年まで3年連続で全日本吹奏楽コンクールに出場している川口市立青木中学校。日ごろからコンクール自由曲のようなクラシカルな曲を中心に演奏しているのかと思いきや、実はポップスにも力を入れ、全日本ブラスシンフォニーコンクールやシンフォニックジャズ&ポップスコンテスト全国大会にも出場しています。
そこで、青木中がポップスに取り組む理由とその効果をオザワ部長が取材しました!
青木中学校吹奏楽部がポップスを活動の中に取り入れるようになったのは、顧問である中畑裕太先生が赴任した2014年のことでした。当時は全日本吹奏楽コンクールに出場したことがなく、明確な目標を持てないまま活動している状態でした。そこで、中畑先生が部員たちのやる気を引き出させるために目をつけたのがポップスでした。
「まずは生徒たちが大好きなディズニーランドで演奏をしようと。東京ディズニーランドの『ミュージック・フェスティバル・プログラム』に参加することを目標にして、ジャズやポップスの演奏を教えていったんです」
中畑先生はそう語ります。クラシカルな曲は習得するまでに時間がかかり、すぐに音楽の楽しみを感じられるわけではありません。しかし、ポップスなら初心者も多い青木中でも比較的早い段階で部員たちが楽しめるようになります。
パワフルな指揮で部員たちを牽引していく中畑裕太先生。
では、中畑先生はどのようにポップスの演奏を指導していったのでしょうか?
「基本は、とにかく楽譜に忠実に演奏するということです。ポップスというと『自由に、気持ちのままに演奏する』というイメージがあるかもしれませんが、実は違います。楽譜のとおりにきっちり演奏しないと、ワクワクする音楽にはならないんです」
東京の小平第三中学校の吹奏楽部でチューバを始め、埼玉の狭山ヶ丘高校を経て武蔵野音楽大学を卒業した中畑先生。学んできたのはクラシックの奏法でしたが、大学時代に本物のポップスを身につける機会があったと言います。
「東京ディズニーランド・バンドやプロのミュージシャンのバックバンドでスーザフォンを吹いたんですが、プロのポップスとは楽譜に忠実に演奏するものだと知って驚きました。そして、『楽しんで演奏する』のではなく、『楽しんで演奏しているように見せる』んだということ。お客さんを楽しませることで、結果的に自分たちも楽しくなるということもそこで学びました」
中畑先生はプロのポップスの現場で知った極意を、青木中学校吹奏楽部に伝授していったのでした。
中畑先生のポップス指導の原点はプロと共演した経験にありました!
青木中学校吹奏楽部の部員数は、2017年度で85人。部員のほとんどが中学校に入ってから吹奏楽を始めます。そして、青木中学校が全日本吹奏楽コンクールに出場する強豪校だからではなく、部活動紹介で吹奏楽部が演奏するポップス曲を聴いて「私もやりたい!」と入部を決めるというケースが少なくありません。
2018年度の部長である福田美凪さん(3年生・フルート)、副部長の磯部姫織さん(3年生・クラリネット)のふたりも、部活動紹介でディズニー曲を聴いて入部を決意したと言います。
リーダーとして吹奏楽部を引っ張る福田さん(右)と磯部さん。中畑先生も交えて、オザワ部長のポーズをしてくれました!
実は、青木中学校には独特のポップスの練習方法があると福田さんが教えてくれました。
「ドディダの練習です。曲の中でスタッカートや短いキメの部分は『ディ(Did)』、縦型アクセントや大きなキメの部分は『ダ(Dat)』、それ以外は『ド(Dot)』と声を出して歌うんです。こうすると表現の仕方がすごくわかりやすくなります」
ドディダは中畑先生が、狭山ヶ丘高校時代の恩師である佐々木隆信先生の指導法をベースに改良を加えたものだそうです。ドディダ、楽譜に忠実な演奏によってポップス力を磨いた青木中学校は、ポップス系コンクールにも挑んでいます。
はじけるサウンドが音楽室いっぱいにあふれます。ちなみに、後ろの黒板には「酒井根ならどーするか…どういう雰囲気か…」と書かれています。千葉県の酒井根中学校はライバルであり、目標でもあります。
ポップス演奏の要であるパーカッションは超ノリノリで演奏!
2017年9月には、全日本ブラスシンフォニーコンクールに3年連続で出場を果たしました。曲は《茶色の小瓶》と《Let's Swing!!》。出場したのは「ジュニアバンド」で、吹奏楽コンクールに出場する50名の「シニアバンド」を除いた1年生中心のメンバーでした。副部長の磯部さんはジュニアバンドのリーダーを務めていました。
「楽器を始めて半年も経っていない1年生が大半で、演奏だけでなく、移動や楽器運搬なども慣れていない中、協力しあって頑張りました。結果は敢闘賞。まだまだ演奏面で足りないところはたくさんありましたが、その時点でできる最高の演奏だったと思います」
ジュニアバンドでの全日本ブラスシンフォニーコンクールへの挑戦について、中畑先生はこう語ります。
「初心者だらけで全国大会に臨むのは、言ってみれば無謀な挑戦ですけど、生徒たちが日に日にめざましく成長していくのがわかり、大いにプラスになったと思います。それまで先輩に任せていたところまで下級生が自分たちでやらなければならず、必死に動き回り、精いっぱいの演奏を披露しました」
部長・福田さんのフロートソロ。後ろのメンバーの笑顔にも注目!
10月の全日本吹奏楽コンクール(銀賞受賞)を終えて3年生が仮引退した後、青木中学校は今年2月に開催されたシンフォニックジャズ&ポップスコンテスト全国大会にやはり3年連続で出場。《アンバー・ドリーム》と《SOUSA's HOLIDAY 星条旗よ永遠なれ》を演奏しました。
このシンフォニックジャズ&ポップスコンテスト全国大会はカテゴリ分けがなく、中学校から一般楽団までが同じフィールドで演奏の腕を競い合います。今回はなんと中学校で出場したのは青木中学校だけ。近畿大学附属高校や作新学院高校など名だたる強豪校・団体がいる中で、見事に銀賞を受賞しました。 部長の福田さんは語ります。
「結果も大事ですが、それ以上に練習を通じてジャズの表現方法が身につきましたし、高校生や大人の演奏を聴いたり、行動を目にしたりすることがとても勉強になりました。後輩たちにはぜひ来年は第一位の総合グランプリを目指してもらいたいと思います」
練習後の1枚。とにかく、みんな元気で明るいのが特長!
青木中学校の最大の目標は、全日本吹奏楽コンクールでの金賞受賞。しかも、審査員の評価がオールAのいわゆる「一金(いちきん)」です。それを目指す上でもポップスに取り組むことは意味があると副部長の磯部さんは言います。
「ポップスをやることで、演奏はもちろん、体の動き、演奏中の表情などが豊かになっていきます。コンクールの曲を演奏するときにもポップスで培ったそういう表現力が活かされると思います」
エネルギッシュな中畑先生のもと、ポップスを通じて身につけた表現力を武器に、青木中学校吹奏楽部は今年も全日本吹奏楽コンクールの頂点を目指して驀進することでしょう!
全日本吹奏楽コンクールの一等賞を目指して頑張れ!
中畑先生が提唱する「行動四原則」。詳しくは先生の著書『「行動四原則」で強くなる吹奏楽』(竹書房)をお読みください。
著者:オザワ部長●日本で唯一の吹奏楽作家。著書に『吹部ノート』シリーズ、『サヨナラノオト ブラバンガールズの約束』、『あるある吹奏楽部の逆襲!』ほか。
ラジオ、ネットメディアでも活躍中。