「本当に愛してのるか?」と(男性に)聞かれて 、「私が完全に“自立”した時に答える」と(彼女は)答えた。
「私は“自立”したい。それ以外はどうでもいい。
私にとってお金とは。“自由”に他ならない」
BY ココ・シャネル~
こんなセリフを聞いて、じーん、とくるのは、キャリアウーマンの証だろう。
上記のセリフを残したココ・シャネルは、第一次世界大戦後に、女性の生き方を変えた。小さな帽子店から始まり、世界的なデザイナーになり、実業家であった。
そういえば、映画評論家の小森のおばちゃまのお店の名前が、“ココ”だった。シャネルの生き様に傾倒していたから、と教えてくれた。
鞄や香水を愛用していたわけではなく、そのエネルギッシュな存在に魅了されていたようだ。
デザイナーという仕事を通じて、貴族、政治家、芸術家、ビジネスマンと、一流の看板を持つ人々との愛と交流のなかで、いかに自立した自分を築きあげていったのか?
実は私が、彼女のようなヒロイン像を受け入れるには、躊躇する部分がある。自著「セクシャルウェポン、それは愛ですか、武器ですか?」では、悪女の技に疑問を投げかけている。
女性の自立に、女の色気(武器)を使うのは、かえって女性の自立を遅らせるという自説が私にはあり、今後の課題になっている。
しかし、ココ・シャネルの生きた時代にそんな理想像など通用するわけもなく、彼女は、愛もビジネスも権力も境界線がなく、ひたすら“自立”に対する信念を貫く姿勢が根底にあった。それは、曖昧なものではなく、徹底したものだった。
何より、ナチスからユダヤ人の間をも行き来する綱渡りのリスクの中で、自立と成功を求めるのだから、尋常な神経とパワーの持ち主ではない。
そこには、性的関係もあれば、友愛もあり、ときには同性愛もある。魅力ある女性を魔性の女=ファム・ファタールに位置づけて喜ぶのは、男性社会にほかならないだろう。
ココ・シャネルは、ともかく、そんな幻想を吹き飛ばしてくれる。
本作は、ココ・シャネルの歴史が凝縮して描かれるショートフィルム。
映像や写真やナレーションで綴るドキュメント方式だが、単なるプロフィールの羅列ではなく、歴史の中の特異な女性のパッションがあふれ、いたく衝撃を受けた。
現在、ココ・シャネルのブランド権利は、当時のユダヤ人パートナーのファミリーが引き継いでいるという。ココは生涯独身で、子供も残していない。
女性リーダーの誕生の証を、あらためて胸に刻んでおきたい。
◇ ◇ ◇
さて、心配なオリンピックを前に、蹴るか、舞うかしかない国で育ったアスリートたちは、いまコロナ禍で、ジレンマを抱えているだろう。
まさに、生きる道は蹴るか、舞うかしかない国がある。アスリートか、ダンサーか、その方法しか世界に向かう道がない、そんな環境で育まれた才能には、かなわないとさえ思える。
ブルース・リーもマイケル・ジャクソンも、身体的能力と洗練された技で世界を斡旋し、歴史に名を残した。
本作「リル・バック ストリートから世界へ」の主人公、リル・バックは、メンフィスのゲットーで踊るストリートダンサー。そんな彼が、これまでのジャンピング・スタイルを超えて、黒人には経験値がないクラシックの域に入った。独自の舞は、彼のアイディアによるものだ。
「ダンスには、基礎が10%で、アイディアが90%」とリルは言う。この動きを、すべてのミュージシャンに捧げたいと彼は語っている。
バネの強い、ジャンプ力のあるブラックダンサーは知っているが、こんなにしなやかな、バラードで踊れるスタイルを見たことがない。
マイケル・ジャクソンが彼を見つけたら、きっと喜んだであろう。
そもそもリル・バックが、クラシック演奏とからむきっかけは、チェリストのヨーヨー・マが、YouTubeでリルを発見し、共演をオファーしたことから。さらに、二人のコラボをスパイク・ジョーンズ(「マルコビッチの穴」の監督)がYouTubeにアップしたことで、映画化の道へと展開する。
映画は、リル・バックが本格的にバレエのレッスンを受け、クラシックの演奏で優雅に舞う姿が見せ場になっている。同時に、ゲットーから這い上がり、教育により前進する青年の未来を重ねたドキュメントでもある。
ウィーン・フィルハーモニー交響楽団のニューイヤーコンサートで、毎年、洗練された美男美女のダンサーたちが踊る映像を楽しみにしているが、いつかリル・バックのような異色のダンサーが登場する時が来るのだろうか?
『ココ・シャネル 時代と闘った女』
出演:ココ・シャネル、フランソワーズ・サガン他
監督:ジャン・ロリターノ
ナレーション:ランベール・ウィルソン
配給:オンリー・ハーツ
公式サイト:http://cocochanel.movie.onlyhearts.co.jp/
7月23日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマ他にて全国順次公開
『リル・バック ストリートから世界へ』
原題:LIL BUCK REAL SWAN|2019年|フランス・アメリカ|ドキュメンタリー|85分
監督:ルイ・ウォレカン
配給:ムヴィオラ
公式サイト:http://moviola.jp/LILBUCK/
8月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺他全国順次公開
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイトへ
レッスントート「Swing」(フルート、オーボエ、クラリネット対応)
ボストンの厚み21cm⇒13cmの厚みにしてDカンも取り付けた普段使いのレッスン用トートバッグ。
昨今NAHOKは、一枚仕立てのリュックも人気ですが、女性向けにはトート型が持ちやすいですね。
*Dカン座付き、底幅13cm
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