今年のショパンコンクールで、日本人ピアニストが2人も入賞し、話題になった。
1位の(ブルース・リーならぬ)ブルース・リウ氏の演奏はYouTubeで聴いて圧倒されたが、2位は「ピアノの森」で私もファンになった反田恭平さんだ。
「アジノ~!」とついつい呼んでしまうアニメの力は大きいが、本当に20代でこんな演奏を?
政治を中心に、いろんなジャンルで、日本人の劣化を感じる今日このごろ。
若者には、スポーツや音楽で飛び抜けた才能を見せてくれる人がいるのが救いだ。
テレビ放送がもし、皇室から一般人になる眞子さまの、あまり晴れやかではない結婚記者会見で緊急特番を組むのではなく、世界的な賞を受賞したピアニストの演奏をフルで聞かせる特番を放送したのなら、どれほど文化レベルが上がることだろう。
もちろん、ニュースとしては取り上げられたが、こうしたアーチストの賞について“履歴”で説明したがるテレビメディアの紹介方法には、少々うんざりする。
個人のプロフィールや肩書き、コンクールの価値についてはしゃぐのだが、肝心の音はどこ?
そもそも、反田さんが幼い頃から大好きだったという漫画「ピアノの森」は、まったく教育が受けられない境遇の少年が、だからこその才能を発揮する物語。
エリート教育を受けていない野性の少年が、ある過去を持つ先生の指導のもと、常識の線を遥かに超える美しい演奏の瞬間を見せる。
このユニークでドリーミングな世界観を反田氏は持っているのだ。
映像化されたときには、彼の演奏が実際に使われた。
メディアとしては、日本人が海外で優勝したことにだけに興味があるようだが、パネルまで出して、経歴や賞についてアナウンスメントする時間があるなら、演奏を聞かせて欲しい。途中で、言葉を挟まないで、とだけお願いしたい。
私も昔、映画紹介をゲスト形態で、バラエティ番組に組み込まれることが大嫌いで、映画解説は映画のみ、独立した形でのパッケージにしていた。
ダイジェスト、予告編とはいえ、あの作り込んだ映像に、日常会話のトーンで出演者が大勢で、べらべらとしゃべり口調でかぶせる紹介方法は本当に、げんなりさせられる。
若干のナレーション以外は、関係のないコメンテイターの素のしゃべりを入れるべきではない。
映画は、作品ごとにリズムが違う。作品の持つリズムをキャッチしている人だけが、邪魔にならないのだ。
主体は映画芸術なのだから、凡庸な芸のない喋りをかぶせては台無しだと気づかないのは、なぜなのだろうと思い続けたが、今の時代も変わっていない。
テレビ人は、メディアの権力で、映画紹介を劇場の宣伝としか思っていないことから、文化レベルが下がるのだろう。
いまやコメンテイター流行りの時代で、専門性のないところでレギュラーの地位を得る文化人も多く登場し、喋り口調と論理が確立されていないことから、ちんたらトークになる人も少なくない。
そもそも、日常のすべてのニュースにコメントする形態に、無理がある。
映画やドラマ以外に、言葉が独立して、エンタテイメントになるとしたら、感動のスピーチスタイルがある。
エンタテイナーではないジャンルの人間が、人に感動を与えることができる可能性は、ひとりしゃべりのスピーチだ。ときには1曲の音楽と同等に感動を与えることができる。
前述の眞子さま記者会見でも、そんな意味で、やろうと思えばできたはずだ。
あのような緊張感あるシチュエーションで、最高ランクのスピーチをすることができたなら、より多くの人に共感と感動を与えることができただろう。
悲劇のヒロインが巷の誹謗中傷を抑え込むことよりも、人々の思いを汲み取る姿勢で、元皇室の人間として、もう一段上から思いを伝えることもできたのではないか。
日頃の考え方があればこそだが、さらに、ハリウッド映画ばりのスピーチライターの発想を身につけていればいいのだが。
日本人の会話能力は、プロにおいても決しておしゃれで、洗練されているとは言えない。
政治家は特に、心を伴うスピーチ力が必要だ。
そのために、映画を見るべきなのだ。
昨今のドキュメントで、参考になるスピーチがある。
約4時間もの長編ドキュメント「ボストン市庁舎」(2021、米、11月日本公開)は、エンタテイメント映画ではなく、アメリカの一市長さんの活動をそのまま見せるだけの映像である。
実在の市長が、ガラス張りの仕事方式で、行政の改革過程を100%見せていくリアルドキュメント。
これは、全国の市長や行政職員がまず見るべき作品と言えるだろう。
どのように市民と市長が対等の立場で共に市を創り、互いに成長するのか?
そしていつも、市のほうから市民に向かって、いらっしゃませ~と手を差し伸べている状態になるということ。
そんな一市長が、感動のスピーチをする。
そもそも魅力的な容姿でもなく、話が特別うまいわけでもない普通の人が、ヒロイズムによる改革と行動により、感動を与えるスピーチができる瞬間だ。
本人のスピーチを翻訳文字のまま以下にメモした。
わずか5分ぐらいの時間である。
なんで、政治家がこのくらいまとまりのあるしゃべりができないのか?
メディアを占領してだらだらと言い訳に時間を費やすのは、倉庫保管料が毎月7500万円かかる“あべのマスク”と同じく、もったいない。
「市長の仕事とは、市民にドアを開けることです。
市を変え、国を変えましょう。
我々がドアを開けると、大勢の(ボストン)市民が
扉から夢や未来へ向かう。
市民の強さがあるから、市が強くなれた。
今は、国のほうが心配です。
市が(ボストンが)国を変えましょう。
違いは、人を分断しない。
力を合わせばやれる、
それが民主主義です。
ボストンの歴史上、最も多様な行政です。
すべての声を聞く。
最も根深い問題に取り組み、市を変え始めた。
学校、図書館、居住、仕事へと
扉を開けました。
心地よくなくても、新しい声を聞きます。
率直に話すことが、より良い解決になる
民主主義の象徴です。
社会的正義が核心です。
平等に話をすることが市を元気にするからです。
移民を守る戦いを続けます。
ジェンダーの平等に努力します。
LGBTの権利を絶対に守り続けます。
この5年間で、思いやりのある民主的な市になった。
声を聞き、学び、導いていきます。
この成果を誇り、もっと努力を。
私達の仕事は始まったばかりです。」
ボストン市庁舎
監督・製作・編集・録音:フレデリック・ワイズマン
2020年 | アメリカ | 英語 | 274分 | カラー | 1.78 : 1 | モノラル | DCP
原題:City Hall
字幕翻訳:斎藤敦子
後援:アメリカ大使館
配給:ミモザフィルムズ、ムヴィオラ
cityhall-movie.com
11月12日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイトへ
軽量リュック「Helden/wf」ブラック
(フルート、オーボエ、クラリネット対応)
販売価格: 25,200円(税別)
ブラック光沢を追加しました!
フルート、オーボエ、クラリネットなどシングルケースカバーに入れたまま、ざっくりと使用したい、防水バックパックスタイル。1枚仕立てにより、軽く、温度調整機能素材はありません。
内側に、起毛素材による仕切りポケットがひとつあり、オーボエ、クラリネットのWケースをポケット内にそのまま収納することもできます。
B4譜面ファイルや、シングルケース、小物など、いろいろ放り込める、大ぶりの防水リュックサックです。止水ファスナーで全面を覆っているため、左右どこからも雨が漏れません。
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