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都民に扉を Door is open!

木村奈保子の音のまにまに|第69号

「都知事の仕事とは、都民にドアを開けることです。
都を変え、国を変えましょう。
我々がドアを開けると、大勢の都民が
扉から夢や未来へ向かう。

都民の強さがあるから、都が強くなれる。
今は、国のほうが心配です。
東京都が、国を変えましょう。

違いは、人を分断しない。
力を合わせばやれる、それが民主主義です。

東京都の歴史上、最も多様な行政です。
すべての声を聞く。
最も根深い問題に取り組み、都を変え始めます。
学校、図書館、居住、仕事へと扉を開けていきます。

心地よくなくても、新しい声を聞きます。
率直に話すことが、より良い解決になる民主主義の象徴です。
社会的正義が核心です。
平等に話をすることが都を元気にするからです。」

都知事選に向けて、熾烈な戦いが展開しているなか、ドキュメント映画「ボストン市長舎」(2021・米、11月日本公開)を思い出した。
実在の市長が、そのなかで放ったスピーチの一部を、都政に置き換えて書いてみた。

別にハリウッドのスピーチライターが書いたわけではない、実在の人物によるものだ。
そもそも、この作品を製作する前から、監督はウォルシュ市長を主体に描くとは決めておらず、ありのままを1年間を市庁舎で撮り続け、4時間に編集したもの。
ボストン市庁舎の市民への扉を開けた実話である。

世界中の人々が欲する政治に対する基本姿勢が、ここにある。
当たり前の考えが普通に行なわれているだけなのだが、新鮮なのは美しくない政治家を見過ぎているせいだろう。

都知事選も主要候補者らによるトーク合戦が展開しているが、ネットメディアを含め熱心に見ていても、“感動のスピーチ”はなかなか見当たらない。
どこまで実現できるかは別にしても、純粋な魂がはいった話を聞いてみたい。

誰ひとり公約に、「東京都を音楽と映画の街に」という文化的なものが、出てきていない。
なんとも夢がない。せちがらい世の中で音楽家、アーティストは、才能があり、豊かな社会のために貢献できるはずだ。

それなのに、立候補者たちのトーク内容が、まるでイカさない。
築地問題で苦しむ友人が、小池さんへの恨みで悪口を言っていると訴えた田母神候補に対して、現役候補の小池氏は、「その、お友達を変えたほうがいいんじゃない?」と笑みを浮かべて、切り返した。

これが、対面相手との去り際に、言い返せない程度の絶妙なタイミングでやんわりと嫌味を吐く、という手法か……。
ああ、これは昔から私がもっとも不得意とするきり返し方法で、とある賢い(?)主婦たちから、わざわざ伝授されたことがある。
直球で返すと角が立つので、しれっと嫌味を吐いて、そのあとまた返されないよう、ささっと逃げるのが大人のやり方よ、とたしなめられたことを思い出した。

もちろん、こんな手法は苦手で嫌いなことは今も変わらず、主義主張を持つ人間には、不要なコミュニケーション技術だと私は思っている。

ただ、小池氏は、これまで男社会で男性のサポートではなく、男性が望むポジションを自ら望み、サクセスを果たすという点で、キャリア女性たちに憧れを抱かせたことは確かだろう。
われわれの世代は、いくら女性がキャリアを目指しても、成功者は大物の妻であり、大物のアシスタントになることだった。
アナウンサーからスタートした私は、当時、女性の未来に不満を抱いたものだ。

小池氏はあの時代に、女子校育ちで日本人の両親から生まれ、第2外国語までネイティブになるはずがない。英語だけでも、話せるのは貴重だった時代だ。
外大を出ても、英語ペラペラ(昭和の表現)と言える人は、少なかったのではないか。

さて私は、竹村健一氏(著名な政治評論家)と面識があったため、当時のテレビ番組のスタッフに、小池氏のことを聞いたことがある。
ソファに寝そべって、だいたいやね~と話す竹村氏に対して、小池氏は礼儀正しいどころか、かしづくようにかがんで、延々と話を聞いている、と。
そのとき、なんだか、ぞわっとした。
これまで私が知っている、女性を武器にした悪女とは“レベチ”の姿勢である。

やがて、番組アシスタントになった小池氏は、ある日、竹村氏の番組欠席時に、ひとりでなり替わってキャスターぶりを見せた。英語での生インタビューも交えてだったため、アナウンサーも記者も経験がないのに、やるではないか、と思った記憶がある。

そうした女性キャリアのハシリとして、切り開いてきた過去を少しでも美しく残したいなら、いまはもはや、次の世代に譲る時である。
願わくば、次は女性の魅力や武器を必要としない、新世代の女性であってほしい。

去り際の嫌味返しは、人の人生が深くかかっていた築地問題のほか、拉致被害者の会でバッグを忘れた小池氏が「私のバッグ、拉致されたのかと思っちゃった~」と笑いながら言い放ったなど、他人の人生にかかわる重大問題を抱えるところで、こんなにも軽々しい言葉を発しているのは、人間としての品性に欠けるというものだろう。

小池氏のハングリーさ、粘り強さはいい意味で、“倒産社長”の娘として苦労したことから、得られたものかもしれない。苦労知らずの政治家2世のバカ息子たちよりは、経験値が高い。残念ながら、人権意識が低いのがネックである。

映画「ボストン市長舎」のウォルシュ市長は、労働者階級出身で、アルコール依存症克服者だ。苦労を知る人間は、市民のためにエネルギーを使う。
シンプルで当たり前の考え方を複雑にするのは、何なのか?

日常生活を送るのも、音楽生活を送るのも、政治が土台となっている。

カオスの選挙戦で、1票の力を信じたい。

 

木村奈保子

木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com

 

 

N A H O K  Information

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問合せ&詳細はNAHOK公式サイト

 

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