東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスター 田中靖人氏による「吹奏楽サックスa to z」では、65号から”パート練習”をテーマに回答してもらってきました。このテーマは今回が最終回。最後にまとめをしてみましょう。
Q.指導に行かれて「これは無駄な練習だ!」と思った練習はありますか?
A. 練習で大切なことは質と量
練習で大切なことは質と量だと思います。それは目的を持って集中してすることだと思いますから、必ずしも効率の良さとは言えないことがあります。音楽は、考えなくてもできるくらい体に染み込むまで繰り返し練習して、本番を繰り返して、はじめて自分の言葉となります。
無駄な練習とは、目的意識がないものだと思います。例えばロングトーンや音階も、無機質にとらえるとこれほど退屈な練習はありませんが、音楽的に演奏するという目的を持って練習すれば、いろいろ課題を感じるはずです。
そうすれば何かが実って有意義な練習になります。
Q.吹奏楽部員にもやっておいてほしい教則本はありますか?
A. 大切なのはクラシカルな音楽を演奏するための「語法」を勉強すること
JBCバンドスタディは皆さんよくご存じで、普段から合奏で使っている学校がありますが、やはり個人の技量が大切です。ですからサクソフォンだと、全音域をカバーする約2オクターブ半を練習できる音階や音大生が練習しているエチュードを、ぜひ個人練習でやって欲しいですね。エチュードはテクニックをトレーニングするものもありますが、大切なのはクラシカルな音楽を演奏するための「語法」を勉強することです。1曲ずつをよく見てじっくり練習すると、その中に課題が盛り込まれています。
初心者の方は、音を出すということを目的にした、
♪サクソフォン教則本 大室勇一 著(ドレミ音楽出版)
から始めるといいですよ。
ひとつの音を美しく演奏するためにじっくり丁寧に練習してみましょう。
次にシンプルなメロディを音楽的に演奏するエチュードで、
♪50の練習曲 G.ラクール
をやってみましょう。初心者向けのエチュードですが、しっかり消化することが大切です。
Q. プロの吹奏楽団の練習の仕方を教えてください!
A. 合奏は音楽をつくるための時間
吹奏楽団に限らず、シンフォニーオーケストラもそうですが、合奏で音楽を作ります。ですから個人練習はそれぞれ事前にしてから合奏に臨みます。合奏では(個人個人のパートが)できるとかできないというレベルの話ではなく、音楽的なことを作るためのリハーサルになります。
パート練習はありませんが、難しい作品の時は、リハーサル前や後、または休憩の時などに、自主的に分奏をすることがあります。
リハーサルの日数についてですが、コンサートの場合、プログラムによりますが1日から3日。
レコーディングだと、現場で(音楽を)作ることもあるのでリハーサルは1日、2日です。
できるとかできないというレベルのことは、個人の責任においてクリアしないといけないことなので、リハーサルから本番の流れは音楽的な方向を理解して、より面白い音楽を作ることに集中します。
Q. プロを目指しています。将来、佼成のような吹奏楽団に入るにはどんなことが必要ですか?
A. 音楽を表現することが第一、そのための技術向上
楽器を演奏すると、ついつい楽器を操る技術的なことを第一に考えがちなのですが、音楽を表現することが第一で、その目的のために技術の向上が必要と考えることが大切なのです。何を意識するかにより、出てくる演奏は全然違ってきます。
音が良いとかテクニックを持っているなどもちろん必要なのですが、オーケストラの一員として演奏できるか(演奏も人間的にも)、ソリスティックな部分でも魅力的な個性を出せるかなど、いろいろなことを求められます。
オーケストラに入るためには、オーディションがあります。何十人もの中から選ばれて、そのあと数ヵ月から1年くらいの間、実際にオーケストラの中で一緒に演奏する、研修期間のようなことがあります。
そしてまた楽団員の投票があって認められると、やっと正式に楽団員となれるのです。
音楽だけではなく、プロの世界は厳しいのですよ。
※この記事はTHE SAX vol.70を再構成したものです