今年の東京佼成ウインドオーケストラの長いツアーも無事終了。たくさんの温かい拍手をいただきました。各地の会場でお会いした皆さん、読んでくれていますか?
さて[最近のスガワ]情報。前号で少しお伝えした、僕ら「トルヴェール・クヮルテット」結成20年の記念的なニューアルバム『シャル・ウィ・サックス?』が7月25日に発売されました。“クラシックをポップに楽しみながら、サックスの深い世界へ誘ってしまおう”という気持ちを込めたこのアルバム、たくさんの方に楽しんでいただけたら嬉しいです。また、これからも全国各地でコンサートを開催していきます。CDとライブ演奏では、それぞれ違った魅力を楽しんでいただけると思います。コンサートガイドをチェックして、ぜひぜひ、お越しくださいね。
“本番でアガってしまいます。どうしたらいいでしょう?”
連載第2回目は、こんなお悩み相談にお答えします。
サックスを演奏している人ならば、一つの目標や楽しみがステージでの本番ですね。日ごろの練習の成果を発表できる良い機会、でもこの「アガってしまう」という悩みは誰しも持っているものです。
やっぱり僕も、未だにどんな本番でも緊張します。アガらないためにはどうしたらいいか悩んで、自己催眠の本などを読み漁った時期もありました。それでもやっぱりトチってしまうことがあったりして、敵は自分にあるということを認めざるを得なくなり、「演奏家に向いてないのかも」と思ったりもしました。そんな中、ある時「アガるんだったら仕方ない。そんな中でいいものを演奏していくんだ」と思って臨んだら、意外とうまくいくことがわかったんです。それからの僕は、「アガる」自分を認めて、それを前提に吹くことにしています。
今でも時々、とても緊張して「大丈夫かな?」と思った時、勝手に足が震え出すことがあります。そうしたときに「ああ、今日またアガってらぁ」って思うと、しばらくするとその状態を忘れて音楽に集中し、いつの間にか震えが止まっています。このように、アガっている自分の状態を認めて受け入れたら、意外とすんなりいくのかもしれません。
僕は経験を積んできたからこんな状態に達したのかもしれないけど、「アガらないようにするにはどうしたら?」と考えるより、「アガってしまう上でどう演奏したら?」と思って策を考えたほうがいいかもしれませんね。
お客さんはミスしない演奏を聴きにきているんじゃなくて、良い演奏を聴きにきています。それなのに演奏者が「ミスしたらどうしよう」とオドオドした演奏をしたらどうでしょう?そんな演奏は誰も期待していませんよね。それに、ステージに立つ時は普段と違う状態になって、緊張感が高まっているし、心拍数も相当上がっています。だからこそできることもあるんです。究極の状況だからこそ緊迫感のあるフレーズが実現したり、より悲しい表現ができたり……。
とは言っても、ここに達するには時間がかかると思うので、自分なりのジンクスを見つけるというのもいいかもしれませんね。おまじないのような言葉をつぶやいてからステージにあがると上手くいく(と思いこむ)とか、お決まりのフレーズをステージ脇で吹いてから出て行くとか。ちなみに、僕の場合は逆ジンクスです。「普段と違うことはしない」。本番前でも、赴くままに周りの人とおしゃべりしたり、コーヒーを飲んだり、一人きりでいる日もあったり、その日の気分を享受してしまうようにしています。
でもコンクールの時は少し様子が違いますね。ミスが命取りになるという強迫観念からスケールの小さい演奏になったりしてしまいがちです。そんな時は、自分はどうしてサックスを吹いているのか、サックスに憧れ、初めて楽器を手にしたときの感動、音が出た時の喜び、そんな気持ちを思い出してみてはどうでしょうか。
それから、緊張すると身体は硬くなっていますから、演奏前に軽くストレッチをして身体をほぐすことは大事だと思います。軽くですよ!疲れてしまっては本末転倒なので、深呼吸をする、手を動かす、胸を張って上半身をほぐす、肩の力を抜く、など。僕も必ずやっています!
深呼吸からの発想ですが、人間の身体は息を吸うとグッと緊張し、吐くとリラックスします。だから、深呼吸をするときはしっかり吐くこと。そしてもっと具体的にそのことを利用してみましょう。「ステージに出て、今から吹く」という時、その曲のテンポ・ニュアンスを感じて、2拍前で息を吐いて1拍前で息を吸って吹き始めると、まずうまくいきます。息が十分に入るので、ブレスコントロールがしやすいんです。でもこれは、普段の練習から「吐いて、吸って、吹き始め」ということをやっておかないと、いきなり本番だけやってもテンポ感が狂ったり出だしがおかしくなってしまいますから要注意です。
本番に臨むときの理想論、現実論、いかがでしょうか?いろいろ方法はありますが、前よりもちょっとでもアガらなくなったら、その時に自分を褒めてあげましょうね。そうすれば1歩ずつ、本番に強くなっていけるかもしれません。
皆さんがそれぞれのステージを楽しめるように、僕も応援しています!
※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです
須川展也 Sugawa Nobuya