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vol.6「サックスを吹いていない時はどんなふうに過ごしているの?」

THE SAX vol.28(2008年3月25日発刊)より転載

最近のスガワ

皆さん、こんにちは。例年以上に寒かった冬も終わり、少しずつ春を感じられるようになりましたね。僕は相変わらず、いろんな場所で演奏させてもらったり、新しい年度に向けて動いています。この春の新しい動き、お知らせをさせてください。僕が昨年レコーディングしたCDが、4月末(オペラアリア集/avex classicsレーベル)と5月初旬(コンチェルト集/英・シャンドスレーベル)立て続けにリリースされます。また、以前このコラムでもご紹介したインストゥルメンタルテキスト・シリーズ「フェルリングのエチュード」(DE HASKE JAPAN)も発売になりました。ぜひぜひ、お手にとってみてくださいね。

 

 

サックスを吹いていない時はどんなふうに過ごしているの?

教えて須川さん

「日本国内のみならず海外でもご活躍の須川さんですが、お休みの日など、サックスを吹いていない時間はどんなふうに過ごされているのでしょうか?」

 

やっと来ました、この話題! ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、僕の趣味とも言える“カーライフ”についてお話ししましょう。 もともと僕は、子どものころから乗り物が好きでした。自分の部屋で、本などをホームに見立てて鉄道を走らせ、仮想の国を作ってみたりするような鉄道少年だったんです。大学生のころには、50ccのオフロードタイプのバイクで芸大の寮から学校まで通ったりもしていました。このころ、車の免許を取りかけていたんだけど、だんだん忙しくなり、その中で教習所に通う根性もなく(笑)途中で放棄してしまっていたんです。自分で運転することはなかったけれど車も好きで、興味はあった。いつか乗ることがあるかもしれないということで、車も持っていないのに駐車場を借りたり……。

そんなある日。東京佼成ウインドオーケストラの演奏旅行中に、ある団員が車の雑誌を持ってきて「この車カッコいいですよね!」と見せてくれたのが、アルファロメオの156だったんです。これから日本に入ってくるという、その素晴らしくカッコいい赤い車に、僕は取り憑かれたように見入ってしまった。その記事には、「日本に入ってきたら大人気になること必至。なかなか手に入らないだろう」と書かれていました(案の定、それは大ヒットしました)。僕はいても立ってもいられず、その楽屋から雑誌に載っている電話番号に「この車を注文するにはどうしたらいいか?」と問い合わせていました。免許も持っていないくせに(笑)。

 

運良く、近くのディーラーを紹介してもらうことができ、演奏旅行から帰ってから早速行ってみました。「アルファロメオの2.5リッター、6速マニュアル、右ハンドル。免許を持ってないんだけど、どうしてもこの車が欲しいんです。今から教習所に行きます」と宣言(笑)。ディーラーさんもビックリしていましたね。 それが5月の話。納車されるのはどんなに早くても8月ごろと聞き、その足で近くの自動車教習所に申し込みに行きました。そのころはツアーで忙しいシーズンでしたが、すべての予定を教習所に合わせて動かせるものは動かし、ツアーの最中も空き日には飛行機で東京に帰って教習所に行ってそのまま飛行機で戻って……というような具合で、1時間でも空いていたら通学。当然、サックスを練習する時間も減ってしまって……その3ヶ月はサックスの腕が伸びなかった時期かもしれません。

努力の甲斐あって、忙しい中でも2ヶ月くらいで免許が取れましたが、車はまだ届きませんでした。納車までの間も練習をしておかなければ危ないと考え、これまたその足でレンタカー屋さんに行き、ホンダのシビックを借りました。残念ながら初心者にマニュアル車は貸し出してくれず意気消沈しましたが、その車で毎日どこかに出かけましたね。ちょうどトルヴェール・クヮルテットの「四季」を録音したときで、メンバー3人の車に挟んでもらって録音会場まで行きましたよ。そして休憩時間は車庫入れの練習。みんなに呆れられていましたけど……。

 

そんなこんなで、待ちに待った納車の日。ほぼ3週間くらいマニュアル車に乗っていない状態で、新品のアルファロメオを運転して帰ることになったんですが、とにかくエンストしまくりでグシャグシャ状態でしたね。前から大型車が来たら怖くなって交差点の真ん中でエンスト。ガソリンスタンドでは給油口がどこにあるのかわからずトランクを開けたり、ウインカーを出そうと思ったらハザードがついたり(!)その当時アルファロメオはただでさえ目立っていたのに、僕は初心者マーク(笑)。ガソリンスタンドのお姉さんが笑うに笑えない顔で応対してくれたことが、今でも忘れられません。

アルファロメオは、教習所で乗っていたマニュアル車よりもちょっとつなぎが難しかったので、毎日出かける時に坂道発進の練習を3回、帰りはスーパーマーケットの大きな駐車場で2〜3回駐車の練習をしていました。

楽器と同じで、練習好きなんですね! 楽器と共通していると思うのは、「これを、どうやって自分の思う通りにコントロールできるか」ということに喜びを見い出しているところ。僕は、免許取得当初から「運転のテクニック」などの本を読みまくって「スポーツドライビング」とか、いろんなテクニックを知ってしまっていた。初心者のうちからそんな高度なテクニックを習得しようと、さらいまくったんです。

そこで気付いたのは、「初心者が高等なスポーツドライビングテクニックの知識を持って、なんだかやってみたくなる気持ち」は、サックスにでもあるんじゃないかということ。少し吹けるようになってくると、フラジオやポルタメントがやってみたくなるでしょう? 僕は車に乗る前まで、サックスを教える時に「基礎ができるまで高等テクニックは知らなくていい」と言っていたんですが、車の初心者である自分が高度なテクニックを知ることで“大好きな車に少しでも近づいた!”という喜びに繋がった時、ああ、なるほどなと思いました。以来、初心者の人にも「興味があればフラジオなどの高度なテクニックにもトライしてみよう!それで難しければ、いつかできるように基礎に戻ってみよう」という教え方に変わったんです。高度なテクニックを知るからこそ、安全運転の大切さがわかる。これは楽器の世界にも共通すると思っています。

車に乗ることは、交通手段でもあるけれど、運転すること自体を楽しんでいます。車中を音楽なしの空間にして一人で走っていると、フッとアイデアが湧くことがあるんです。目に入ってくる景色も、時間や季節ごとに毎回違うから、それが頭を刺激するんでしょう。それが好きなんですね。これが僕の今の生活の、安らぎの時間になっています。

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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