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vol.13「楽器別、攻略法!」

THE SAX vol.35(2009年5月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者のみなさん、こんにちは。新緑の季節も終わり、そろそろ夏の気配です。この春からサックスを始めた方は、そろそろメロディを吹く楽しさを感じているころではないでしょうか。
さて「最近のスガワ」としては……ニューアルバムが発売になります。前号で少しお伝えした、山下一史さん指揮・東京佼成ウインドオーケストラとの共演盤「ヴィルトゥオーゾ・コンチェルト」です。このアルバムについてはTHE SAX 35号に掲載されているインタビューで語りましたので、是非読んで、CDも聴いてみてくださいね。
では今回も、読者の方からの質問にお答えしましょう。

 

 

楽器と仲良く!

教えて須川さん

吹奏楽部でアルトからテナーに変わることになりました。どんな点に注意して練習していけばいいですか? パート全体のためにも、ソプラノ、アルト、テナー、バリトン、それぞれの特徴が知りたいです!

 

サクソフォンはソプラノ、アルト、テナー、バリトンの4本が一番多く使われますよね。吹奏楽やクラシックの場合はほとんどアルトから始めることが多いと思いますので、音階練習やロングトーンで、ある程度アルトに慣れ親しむことができていると、他の楽器への対応が早いと思います。

僕の場合は時々4本持ち替えたりすることもありますが、そんな時に気をつけるのは、ある程度アンブシュアに柔軟性を持たせること。「こうしなければならぬ」と思ってやりすぎると、持ち替えもすごく大変だと思うので、それなりの柔軟性が必要だと前置きした上で、それぞれの楽器のポイントをお話ししていきたいと思います。

【ソプラノサクソフォン】
ソプラノはアルトより高い音域を必要とされる時に使われることが多いですから、頭の中の発想として、アルトで言えば高い音を吹いているような感覚を持つと良いのではないかと思います。カルテットにしても吹奏楽にしても、ほとんどの場合において高い音の透明感、鳴りすぎず、柔らかさもある音で音楽に浸透していくことを求められるので、マウスピースを浅めにくわえることによって高い倍音を出すように心がけるとよいでしょう。
僕の場合、ソプラノのリードはアルトよりも薄く柔らかいものを使っています。アンブシュアを浅くする分、少しリードの反応を良くして、息の通りを良くするんです。ソプラノで苦しんでいる方はマウスピースのくわえ方リードの厚さを工夫してみてください。無理して固いリードで高い音を出すと下唇への負担も多いし、口がバテてしまいコントロールできなくなってしまいますから……。

【アルトサクソフォン】
アルトはサックスの基本です。アルトの最低音から最高音まで均一に、ストレスを最小限にして吹けるようにすることを心がけましょう。楽器の構造も他のサックスより完成度が高く、バランス良く設計されていると思います。ロングトーンである程度音がまっすぐのびて安定してきたら、全音域の音階練習を多く取り入れて、まんべんなくこなせるようにしておくことが一番大事です。音楽の役割としても、特にアルトは低音から高音まで幅広さを求められますからね。

【テナーサクソフォン】
テナーはアルトの低い音域より更に低くなりますが、楽器本体が太くなっている分、響きもその分多く含んでいる感じですね。音楽の中で豊かな響き作りの役割を与えられることが多いと思います。ですから、テナーの場合はアンブシュアをあまり固くしめすぎず、楽器本体が持つ響きを生かせるように吹くことがコツです。アルトで言えば、低音域を柔らかく豊かに吹くときのアンブシュアと息の方向を心がけてください。その上で、アルトよりも上の歯の位置が深くなるとバランスがとりやすくなります。
また、テナーは基本的に第1オクターブあたりの響きの豊かさを求められることが多いので、その辺りの音域を聴く耳を持ちましょう。ヘ音記号の五線の上のほうの音域が、豊かに柔らかく響けばテナーサックス本来の味が出ると言えます。そしてその響きを意識したまま高い音域にいけば良いでしょう。テナーの高音域は、少し音程が下がり気味になることが多いと思います。中低音の響きを生かしつつ、高音域の音程が下がらない、良いバランスで吹ける息の入れ方とアンブシュアを自分で研究して見つけましょう。

【バリトンサクソフォン】
バリトンはもちろん、バスラインを担当することが多いので、ヘ音記号の下第2線のドの音(バリトンの最低音)まで普段から出しておくことが大事です。
アルト、テナーに比べ、アンブシュアの圧力はもっと柔軟性が必要です。少し柔らかく、あまり強くくわえすぎないことが響きを消さないポイントです。バリトンに慣れない人は、アルトサックスを吹くような感じで吹いてしまうために、全部の音が詰まってこもり気味になっている場合があります。それはアルトと同じくらいのアンブシュアの力でリードをしめすぎているからだと思います。また、バリトンは第2オクターブのレ(実音F)のあたりの音程が非常に上ずりやすいので、口の中を細く、速い息で吹くのではなく、むしろ「フォ〜」というようなイメージで暖かい息でしっかり響かすと音程も上がりにくいし、締まった音になりにくいと思います。

まとめとして、楽器の音域が高いほうは速い息でアンブシュアもしっかり、低いほうはアンブシュアに柔軟性を持ち、リラックスして息の通りも太くする。楽器の大きさによってアンブシュアの浅さ・深さや、強い・弱いをコントロールするのがポイントだと思います。

 

次回のテーマは「再・楽器別、攻略法!〜より掘り下げてみよう〜」。
実際に持ち替えをして演奏する際の心得をお話しします。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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