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vol.14「再・楽器別、攻略法!

THE SAX vol.36(2009年7月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者のみなさん、こんにちは。そろそろ梅雨も明け、夏本番ですね。
僕の所属する東京佼成ウインドオーケストラでは、つい先日まで恒例の国内ツアーを行ない、今年も全国各地の吹奏楽ファンの皆さまとお会いすることができました。毎年のことながら、日本各地を旅するこのツアーは大変なスケジュールですが、客席の皆さんの期待と応援の眼差しに元気を授けてもらい、無事成功させることができました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
ところで!僕の最新アルバムが5月に発売されています。ヴィルトゥオーゾ・コンチェルト、皆さんお聴きいただけたでしょうか。感想などお寄せいただけたら嬉しいです!

 

 

再・楽器別、攻略法!

さて、前回は読者からの質問に答える形で「ソプラノ、アルト、テナー、バリトン」の楽器ごとの特徴を簡単に説明しました。今回はそれを踏まえ、もっと総合的に、楽器を持ち替えて演奏する機会に向けての心得をお話ししようと思います。

まずサクソフォンを演奏する人は、クラシックの場合ほぼアルトが中心になります。アルトで全音域を使って十分に音階練習とロングトーンをし、楽器のクセを知り、慣れ親しむことができていると、他の楽器への対応が早いでしょう。また、学校の吹奏楽部などでサックスを始める場合でも、条件が許せば最初はアルトを勉強してから他のサックスを担当するほうがいいと思います。

とはいえ、それぞれの楽器に特徴があるので、持ち替えてすぐその楽器の音を出すというのはそんなに簡単ではありません。楽器ごとの特徴に慣れ親しむ必要があります。いざ持ち替えとなれば、それぞれの楽器でロングトーンや音階、エチュード、曲の練習をしておいたほうが良いですね。

では実際に4つの楽器を持ち替えて吹く時のことをお話ししましょう。
まずは、アンブシュアを作ったときに上の歯をどの位置に当てるか、また当たっているかを考えると、順応しやすいんじゃないかと思います。人によって歯形が違うので絶対とは言えませんが、アルトの際の上の歯の位置は標準的に言うと、マウスピースの先端から1cmぐらいのところ。僕の周りの多くのサックス奏者を見ていると、ほとんどその位置になっているようです。それを基準にして、ソプラノは0.8cm、テナーは1.2cm、バリトンは1.3〜1.4cmぐらいになっていくと考えればわかりやすいんじゃないでしょうか。楽器の大きさによってマウスピースの先端から上の歯の当たる位置の距離を変えることができれば、コントロールしやすいでしょう。

よく聞くのは、ソプラノとアルトを持ち替えたときに、ソプラノの高音が出せず、また出せたとしても音程がぶら下がることが多いこと。これは実際の症状として見受けられることが多いですね。そういう人たちは、アルトと同じくらいに上の歯を深くくわえてしまっていることが原因だと思います。これでは、アルトより小さいマウスピースのソプラノをコントロールするのはかなり難しいですよ。

僕がソプラノを吹く場合、フラジオよりも高い音を出すときは、上の歯の位置はより浅くなっています。力任せに音を出してしまうと、良い音色は絶対に出せません。上の歯の位置は自然に浅く、先端からの位置は短くなっています。そう、同じソプラノでも吹きながら多少上の歯の位置をずらしながら調整しているんですね。同じようにテナーやバリトンの場合は、深くなっていきます。

楽器の音域が高いほうは速い息でアンブシュアもしっかり、低いほうはアンブシュアに柔軟性を持ち、リラックスして息の通りも太くする。楽器の大きさによってアンブシュアをコントロールすることが順応するポイントだと思います。

あとは耳の問題も大きいですね。例えば、普段音楽を聴くときに高い音ばかり聴いていると、頭や体が高音寄りの方向になっていくものです。ということは……ソプラノを吹く時は、オーケストラで言うとフルートやオーボエ、ヴァイオリンなどの高い音に普段から神経を向けると、高い音のイメージが備わってくる、ということですね。アルトの場合はクラリネット、ヴィオラなどの中音域を聞いてイメージを育てましょう。テナーはチェロの高いほうの音域で美しく歌う場面やユーフォニウムなどの響きを意識すると豊かさや響きが出るんじゃないでしょうか。バリトンはチェロやコントラバスによるベースラインに耳を傾けるようにすると良いですね。このように、普段から自分の演奏する楽器と近い音域を持つ楽器の音に耳を傾けてみて、自分の耳をその音域にそろえていくと、早く対応できるようになると思います。

耳を鍛えるということは、楽器持ち替えの際に限らず、楽器を演奏する上ではいつでも必要なことです。自分の耳でどんな音が良いのか判断し、いつも想像できる力が備われば、実際に自分が出す音に必ず生かされてくるものです。ですから、全部の楽器をまんべんなく持ち替えて演奏したい場合は、全音域を同時に聴く耳を育てることが必要になってくる、ということはお分かりですね!

ソプラノ、アルト、テナー、バリトン。すべて同じ“サクソフォン”なのに、それぞれの楽器が本当に奥深く、全然音の方向が違う。こんな魅力的な楽器は他にないのではないでしょうか。それぞれの魅力や特徴を知り、本当の音に耳を傾け、すべての楽器を楽しく演奏できるようになると、表現の幅がグンと広がってきます。
皆さん、ぜひチャレンジしてみてくださいね。

 

次回のテーマは「Sound+1 共演の喜び」。
須川さんが出演したNHK「Sound+1」一般の参加者に伝える情熱について語ります!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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