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vol.22「拍手喝采を浴びた佼成のヨーロッパツアー 前編」

THE SAX vol.44(2010年11月25日発刊)より転載

最近のスガワ

こんにちは。芸術の秋……はあっという間に過ぎ去ってしまいましたが、皆さん、仕事に趣味に、充実した季節を過ごしましたか? 僕は相変わらず、様々なコンサートでたくさんの経験をさせてもらっています。忙しくても、聴いてくださるお客様の笑顔を見ると、疲れなんて感じないんですよね。本当にありがたいことです。
さて今回は、いろいろな演奏機会の中でも特に印象的だった、東京佼成ウインドオーケストラ(以下 佼成)のヨーロッパツアー記をお届けします!

 

 

拍手喝采を浴びた佼成のヨーロッパツアー

今回のヨーロッパツアーは、佼成の創立50周年記念の一環企画で、9月中旬から10月初旬にかけての長いツアーでした。イタリアから始まり、スイス、ドイツ、トルコと広範囲を移動、用意した曲は20数曲にわたり、各コンサートで違うプログラムを演奏するという、我々にとって挑戦でもありました。指揮者は、佼成の首席客演指揮者のダグラス・ボストックさん。彼と佼成は10年以上のおつきあいがあります。今回のプログラミングは、彼と培ったレパートリーを紹介すること、そしてヨーロッパの伝統的な音楽、アメリカで育った吹奏楽のオリジナル曲、日本らしさを生かした曲など、西洋と日本の融合ということに焦点を当てていました。中には、僕が作曲家のピット・スウェルツさんに委嘱した、サックスソロと吹奏楽のための曲『ウズメの踊り』もラインナップされました。これは日本の神話「天の岩戸の物語」に出てくる女性の神様ウズメを題材にした曲で、ボストックさんも大変お気に入りとのこと。彼がこの曲の演奏を希望してくれたおかげで、僕はこのツアーで協奏曲のソリストを務めることになりました。もちろん、他の曲ではコンサートマスターとして演奏します。ソリストとコンサートマスター、両方の重責を担うことは、僕にとっては試練でもありましたが、大変有意義な体験でした。

すべての会場でスタンディングオベーションが巻き起こるほどお客さんに熱狂していただけたことは、我々に大きな自信を与えてくれました。もちろん、成功をおさめるための準備は入念に行ないましたし、長旅のストレスが悪影響にならないよう、本番前のリハーサルの進め方などにも大変気を配りました。僕はコンサートマスターとして、旅に出る前の練習はもちろん、旅に出てからもずっと、ボストックさんとたくさんのディスカッションをし、ペース配分のコントロールに務めました。彼もその意義を良く理解してくれましたし、そうした良い雰囲気も、本番の良い演奏につながっていったんじゃないかなと思います。

 

それでは、詳しく旅を振り返っていきましょう。
ツアーはまずイタリアから始まりました。佼成本体のコンサートに先駆け、ローマ郊外の街で、コンチェルトのソリストを務めるオーボエの宮村くん、ピアノのアントニオ・ピリコーネさんと僕の3人でコンサートを行ないました。そして佼成本体のコンサートはトリノから始まりました。これは、現地の“MITO音楽祭”という、とても大きな行事の一環として行なわれ、『ウズメの踊り』を含めたビッグなプログラムでスタートしました。日本から着いたばかりでメンバーの体調も完璧ではありませんでしたが、そういう状況の中で、大きなプレッシャーのかかるこのコンサートを成功させようと集中力が増し、演奏は大成功、大喝采をいただくことができました。

ツアーの最初のステージってすごく大事なんです。演奏旅行は、自分たちのホームではないという不安、長時間の移動の疲れなどがついて回るものです。もちろんみんなツアーの経験も豊富ですし、楽しみな部分だってたくさんあるけれど、やっぱり「我々の音楽が受け入れてもらえるのか……」、それに尽きるわけです。この初日、全員が同じレベルの集中力をもって全身全霊で演奏し、拍手を浴びてスタートでできたことで、モチベーションが上がった。やはりこれは団員全員の力あってのことだと思います。そしてそれは、佼成の50年という歴史の中でメンバーからメンバーへ伝わってきた、集中力の使い方団の温かい雰囲気の賜物だと素直に思えました。

イタリアではそのあと、ヴィチェンツァとポルデノーネ、合計3ヶ所でコンサートを行ないました。どこも小さな町ですし、イタリア自体、まだまだ日本ほど吹奏楽が定着していない国ですが、普段オペラやシンフォニーのコンサートを聴いている人たちがたくさん来てくれました。MITO音楽祭もそうですが、本当の“音楽好き”に喜んでもらえたというのは、かなりの自信に繋がります。そして、そういった国で、吹奏楽の醍醐味を伝えられるような演奏ができたことは、大きな誇りとなりました。いい演奏、心のこもった演奏をすれば、別に演奏形態は問題じゃないということは、ヨーロッパのお客さんに教えていただいたような気がします。

それからスイス・ルツェルンに行きました。実は佼成がルツェルンで演奏するのは3度目になるんです。最初はフレデリック・フェネルの指揮でした。初めて吹奏楽を聴いたお客さんもとても喜んでくれて、それを覚えていてくれたようで、「前も聴いたよ!」と言ってくださった方がいて嬉しかったですね。今回は2回公演があり、どっしりしたプログラムとライトなプログラム、どちらも聴いていただくことができました。

この後ツアーは、ドイツでも吹奏楽がわりと盛んな地域、そして軍楽隊の発祥ともいえる国・トルコへ繰り出します。ますます演奏にも磨きがかかり、行く先々で感動の出来事が待ちかまえていました。僕個人的にも、最終公演日に団員からの嬉しいサプライズをもらったり……、続きは次号をお楽しみに!

 

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

次回のテーマは「東京佼成W.O.ヨーロッパツアー記 後編」。
イタリア、スイスに続いてドイツ、トルコでの公演。その中で、須川さんに素敵なサプライズが贈られました!

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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