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vol.24「コンクールに向かって何をどうする?」

THE SAX vol.46(2011年3月25日発刊)より転載

最近のスガワ

こんにちは。春は別れと出会いの季節。読者の皆さんも、卒業、入学、転勤、転職(?)と、新生活スタートに向けて期待に胸を膨らませていらっしゃることでしょう。その新しいスタートに、ぜひサックスライフも仲間入りさせてあげてください。新しい仲間を見つける、新しいジャンルに目を向けてみる、新しい楽器を買う(!)など、もう一度目標を立て直して新しいチャレンジへのスタートを切るのにも最適な季節です。
さて今年の8月には、3年に一度巡ってくる“日本管打楽器コンクール”サックス部門が開催されます。国内で最も権威のあるコンクールの一つで、過去の入賞者の多くは、現在、世界を舞台に活躍しています。そこで今回から、コンクールを受ける上での心構えについてアドバイスしてみようと思います。もちろん、どのコンクールにも当てはまる内容です。参考にしてみてください。

 

 

コンクールに向かって何をどうする?

コンクールは、コンサートのステージとは違います。お客さんが拍手によってテンションを高めてくれることはないし、ステージに立ったら「審査員に聴かれて審査される」というネガティブな気持ちから、モチベーションを高めていくこと自体がとても難しいのです。ですから、普段の練習では何の苦もなく吹けてしまう部分が、本番では上手くできないということが起こります。本当にメンタルとの戦いです。その戦いを制する直接的な方法はほとんどなく、やはりコンクールに向けて長い時間をかけて計画的に練習を積んでいくことが大切だと思います。練習を積んで音楽が体の中に入りきってしまえば、もし本番で緊張して頭が真っ白になったとしても、自動的に体がその曲を表現できるようになっている。それが意外と良い結果に繋がるケースが多いと思います。僕が大学で教えていた時の経験から言えば、コンクールの1ヶ月前くらいになると、受験する人たちはみんなナーバスになっていきます。練習を詰めていくことはいいことですが、やればやるほど自分を追い詰めていきますから、その追い込んでいる気持ちのほうが強くなってしまって、些細なことが気になったり、今までとは違うセッティングにしてみたり……。また、周りの人が自分と違う吹き方をしているのを見て、迷いを感じて直前でニュアンスを変えたりする。それらが良いほうに働けばいいけれど、だいたいメンタル的に弱っていて思い込みが激しくなっている時は、悪いほうに働くことが多いと思います。

そこで僕がお勧めしたいのは、コンクールまで十分時間がある時から、本選(いくつかの予選を通過し、コンクールの最後のステージ)で演奏する曲の最後の楽章から練習を始めていくということです。管打楽器コンクールを例に挙げて説明すると……本選曲の第3楽章、2楽章、1楽章、第2次予選の課題曲、そして最後に第1次試験の曲という順番。なぜなら、予選の曲から始めてしまうとそこで躓いてしまい、最後(本選の曲)まで行きつかないことが多いからです。コンクール直前になって、焦って本選の曲を詰め込むと、最初に書いたように「音楽が身体に入っていないが故の失敗」に繋がることも多く、非常にもったいないのです。

実はこの方法、僕はコンサートで演奏する曲を練習する際にも使っています。僕はありがたいことに、毎日のように違ったプログラムでの演奏の機会をいただいていますので、直前になってさらっていると、音楽最後の盛り上がりの部分で詰めが甘くなり、曲全体のイメージが弱くなってしまうんです。普段から新しい曲を始める時も、だいたい後ろからさらっていきます。

次に心構えについて。「まだ、○ヶ月ある」と思うと、集中して練習するのは難しくなります。目指すコンクールの3ヶ月前くらいになったら「もう、3ヶ月しかない」と思うようにし、1週間前になったら「まだ1週間ある」と思うように、ともアドバイスしています。このように発想の転換をし、焦りや落ち着きをコントロールすることで、余分なところに気が行くことはなくなっていきます。

それから、コンクールのためにレッスンを受ける際には、直前でないほうが断然良いです! なぜなら先生だって、直前になってしまったら言いたいことも言えませんから(笑)。ありきたりなアドバイスしかもらえなくなると思います。

また、「コンクールを受ける」という行為の中で一番大事なのは、確かにその時の運もあるけれど、順位だけではなく、それまでの勉強の過程が必ず身になるということです。実は僕は大学4年生の時に「ジュネーヴ国際音楽コンクール」を受けました。それまで外国に行ったこともなく、いろんな不安や勝手違いに翻弄されてしまい、1次止まりで残念だったのですが、その時の課題曲はいまでも重要なレパートリーの一つなんです。やはりコンクールを本気で受ける以上は、演奏する可能性のある曲をすべて、丁寧にさらっておいたほうがいい。コンクールのための練習は、かなり細部まで研究しますし、普段だったら少し怠りがちな作曲家のスタイルの分析とか、どんな時代の音楽かなどを探求する気持ちも、コンクールをきっかけに深めることができます。音楽の歴史などにも浸ることができるし、その曲の形式やスタイル的について深く考えることができる。コンクールはもちろん結果を出すに越したことはないけれど、結果を出すまでにどのような時間を過ごしたかということが、後々の音楽経験、演奏家として大事なことになってきます。受験する以上はしっかり全曲に取り組み、その曲が吹ける吹けないということだけではなく、その曲の背景までしっかりと考える。そのためにコンクールを受けることは、すごくいいことだと思います。何かゴールがないとしっかりと曲に取り組むことはないけれど、コンクールに向けて準備していくことが受ける意義になる、とも言えますね。

どうでしょう皆さん、コンクールに挑戦してみたくなりませんでしたか?

 

次回のテーマは「複雑なものは単純に、単純なものは複雑に」。
コンクールに限らず、須川さんが普段の演奏で大切にしていることをお伝えします。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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