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vol.27「本番ステージに臨むにあたって」

THE SAX vol.49(2011年9月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは。暑かった夏もようやく終わり、芸術の秋がやってきました。僕はこれから冬にかけてたくさんのステージで演奏する機会をいただいています。読者の皆さんも、定期演奏会や発表会など、日ごろの成果を発揮するステージに立つ機会が多いのではないでしょうか? そこで今回は、「ステージに立つにあたって、演奏のほかに準備しておきたいこと」についてお話ししてみましょう。

 

 

本番ステージに臨むにあたって

コンサートや発表会などのいわゆる「本番」はすべて、ステージに一歩出る時からすでに始まっています。僕の場合ももちろん、ステージに向かって歩みを始める第一歩目から頭の中のスイッチをONにして、本番モードにします。皆さんも、普段の練習の時から少しでも意識して、本番の気分を予行練習しておくのもいいのではないでしょうか。
僕が観客として見ていて一番さびしいと思うのは、演奏者がステージに出てくる時にしかめ面をしていたり、ちょっと間違えてしまったりすると「あ~あ」という暗い顔をしてステージを後にする人。もちろん失敗して一瞬「あ!」と思うことはあると思いますが、終わってお辞儀をするときは、聴いてくれたお客様に向けて笑顔で挨拶をするのがエチケットだと思います。

今でこそ僕もこうしてアドバイスをしていますが、学生時代には諸先輩方のステージマナーを見て学んだり、「ステージに立つということは最初の一歩からなんだよ」という話を聞いてイメージを膨らませたりしていたんです。どんな環境、シチュエーションでの本番であろうが、人前で演奏するときは一歩出たときから見られているということを、普段から意識しておきましょう。だからと言って見た目にすごく気を使っておしゃれをすればいい、ということではありません。衣装も、演奏と密接に関係する大切なアイテムなんです。

僕は、ソロのコンサートの時の衣装はドレスシャツと黒いズボンというのが基本です。なぜこうなったかにはいろいろと紆余曲折があるんです。僕も大学を卒業してすぐくらいの本番では、燕尾服やタキシードなどを着ていたんですが、汗がすごいんです。額にかいた汗はやがて鼻の付け根を通って鼻の頭に溜まります。「あっ!」と思った時にはマウスピースの上に汗のしずくがポタッと落ち、それは一瞬にしてマウスピースの上面に広がって滑るようになり、アンブシュアが安定せず高い音をハズしまくったという、苦い思い出が……。この経験、ソロの時にもありましたけれど、一番悲しかったのは、カルテットの時ですね。カルテットのソプラノは特に高い音を出さなきゃいけないことが多いですから。ことごとくハズした上にそれでも出そうとするからアンブシュアは詰まる、マウスピースに水が溜まる……と、どんどん悪い方向にいくばかり。長い曲なのでどうしようもできなかったという経験もあって、どうにか汗の対策をしなければいけないと悩み、考えました。一時は「バンダナをしてやろうかな」と本気で思ったくらい(笑)。それで衣装は、お客様の前に出て失礼にならないものでありながら、通気性も良い生地のものを選ぶようになったわけです。また、僕は視力が悪いので以前はメガネをかけて本番に臨んでいましたが、あるときメガネのちょうど視点が合うところにポタッと汗が落ちて、譜面が見えなくなったということもあったので、メガネもやめました。僕の場合はソロにしろカルテットにしろ、割とハードなプログラミングが多いから、ということもあるかもしれませんが、結局はいろいろと失敗したり成功したりの経験から、今のスタイルに落ち着いたのです。

それと同時に、演奏活動を続けているうちに、無駄な力を抜くということの大切さもわかってきました。THE SAXでも「Optimal Sound Method」という身体の動きを考える連載がされていたように、今ではサックス吹きの多くが身体の問題に真剣に取り組むようになりました。必要な力だけを使って効果的に演奏するということは、演奏活動を長く続けていくことにもつながります。僕も身体の使い方を考えて実践するようになってからは、以前のようにものすごく汗をかくことも少なくなったのですが、それには楽な衣装であることも大切な要素です。

かと言って、ただ通気性が良いだけではいけません。衣装ですからね。特にブランドは決めていませんが、通気性が良くて、ステージで着たらいいなと思うデザインのシャツを取り扱っている店はいくつかインプットされていて、時間のあるときにはよくのぞいています。高級なものでなくても、条件にピッタリのものが見つかることもありますよ。

靴に関しては、僕は昔から本番用の靴は同じです。「いつも同じ状態でいる」ということが僕にとって重要ですね。もう身体に馴染んでいるもの。僕はだいたいそうなんですが、本番前にいつもと違うことをしたり、スタミナつけなきゃと言って良いものを食べたりするよりは、普段と変わらない生活をするようにしているんです。その流れですね。

年に一度の本番だから、その日のために購入した一張羅の衣装を身に着けて……という気持ちもよくわかります。だけどそれを本番の日に初めて着て演奏するのは危険だと思います。事前に着てみてリハーサルしておかないと、ボタンが楽器に当たるとかキィに入り込んでしまうなど(実際にありました!)のトラブルが起こる可能性もあるんです。特に女性の衣装は飾りが多いので、それらが演奏を妨げないように、事前にチェックしておきましょう。衣裳よりも一番輝かせたいのはあなたの演奏です。気負いすぎずに早めの準備をしてトラブルの要素はなるべく減らし、演奏に集中しましょうね。

 

次回のテーマは「楽器ケースには何が入っている?」。
何か秘密のアイテムを持ち歩いているの?それとも…?

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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