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vol.47「サクソフォーンの新しいレパートリー、誕生!」

THE SAX vol.69(2015年1月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、2015年、明けましておめでとうございます。今年も素晴らしいことに出会える一年になりますように、お互い楽しんで参りましょう!
僕の比較的新しい出会いは、昨年デビュー30周年の特別公演で共演した世界的ピアニスト・作曲家であるファジル・サイさん。彼は奇才とも呼ばれる素晴らしい音楽家で、強烈なインパクトを僕に残してくれました。そして彼は、サクソフォーンとピアノのための新曲を書いてくれました。今後新しいレパートリーとして、皆さんもぜひ身近に感じていただければ嬉しいです。

 

 

サクソフォーンの新しいレパートリー、誕生!

ファジル・サイさんの新曲は、『組曲』というタイトルで全部で6つの楽章から成る20分くらいの曲です。

第1楽章は郷愁を誘うような大変美しいメロディで、はっきりとした調性のある音楽です。複雑なリズムで進んでいくのですが、演奏していてまったく違和感がなく、自然に心に入ってきます。この楽章が好きだというお客さんは多かったですね。第2楽章はトルコの伝統的な民謡のスタイルで、大きな悲しみの気持ちをはっきり表すようなフレーズが感動を呼びます。第3楽章は、ベリーダンスなどで金属のクラリネットが奏でる速いフレーズを彷彿とさせる、情熱的な音楽です。8分の9拍子なんですが、2-2-2-3というリズムでノリにノれる。野生の血が騒ぐような感じです。第4楽章は16分の5拍子で書かれていて複雑なリズムで展開するんですが、1小節を1拍で感じて5拍子に慣れてくると、ごく普通の4拍子の音楽を演奏しているような感覚になれる、ということを体験できます。5拍子にだってノれる、その不思議な気持ちよさが僕にとっては発見でした。第5楽章は、第2楽章よりもさらにトルコの民族色が強く表れた、美しさと厳しさを表すような楽章です。少しアンニュイな気持ちになるフレーズで、日本の、寂しさを帯びたメロディが心に染み入る感覚と共通しているのか、表現方法についてはわりとすんなり自分の中に入ってきました。そして第6楽章は、循環進行のような流れゆくピアノの速いパッセージにサックスが身を任せつつ、ヴィルトゥオーゾ的に絡んでいきます。最後は第1楽章のテーマが戻ってきて静かに終わっていきますが、第1楽章から第6楽章までの自然な流れは本当に感動的です。

サイさんの作品はほぼすべてドイツのSCHOTT社から出版されるという、それだけのポジションにいらっしゃる作曲家なので、この曲も近いうちに出版されるということです。サクソフォーンの新しいレパートリーとして世界中の人に演奏していただけることを祈っていますし、僕も今後レコーディングなどできるように頑張っていこうと思っています。

彼が本当に天才的だなと感じたエピソードを挙げれば、彼個人のリハーサルをステージでやっているとき、何か曲を練習していてもフッと違う曲が始まるんですね。例えば、モーツァルトを練習していたかと思うと突然チャンネルが切り替わったように自分の曲を弾き始めたり、またフッとベートーヴェンが始まったり。きっと彼の頭の中には、同時にいくつもの音楽が流れているんでしょう。自分の中から溢れてくる音楽に、表現に身を任せている、そんな「生まれついての音楽家」といった印象が強い人です。その一方で、ちょっとお茶目な一面も。我々音楽家にとってコンサート後の「打ち上げ」は楽しみの一つであり大切なコミュニケーションの場なんですが、サイさんは、練習の初日からもう「お好み焼きが食べたい」と言っていました。それも「広島風がいい」と。今回は残念ながら広島公演はありませんでしたが、大阪公演の後、どうしてもと言うのでマネージャーと僕で探し回り、ようやく見つけた「大阪の広島焼き」のお店で、彼がこよなく愛するという熱燗(温めて飲む日本酒)をグイッと傾けながら楽しみました。いつも真剣に音楽と向き合っている彼の、緊張がほぐれた瞬間にいろんな話ができたことも僕にとっては大きな収穫でした。なんといっても、また一緒に演奏しようと言ってくれて、ヨーロッパでのコンサートを考えてくださっているのは大変嬉しいことです。これが実現するように、自分自身ももっと精進しなければ!

やはり僕は、いくつもの素晴らしい出会いから大きな影響を受けてきました。大学を卒業して入団した東京佼成ウインドオーケストラで出会ったフレデリック・フェネルさんの強烈な音楽に始まり、ヤマハのアカデミー等を通して海外のサックス奏者とも一緒に演奏したり、ロン・カーターさんやマーティン・テイラーさんというジャンルの違う音楽の場で活躍する方と共演する機会をいただいたり、名前を挙げればきりがありませんが、日本のすばらしい音楽家の方々……。言葉で「こうしたらいいんじゃない?」というアドバイスもヒントにはなりますが、実際にその方と一緒に音を出したり、その方の曲を演奏し、あまり言葉を交わさないでインスピレーションの中で思い切り自分をぶつけながらやっていくことが、結局いちばん自分の身に付いたんじゃないかと思います。それは日本人同士だとしてもです。音で会話する。音楽というのは言葉を超えた世界の共通語です。受け身だけでは、今の自分はなかったでしょう。ファジル・サイさんとの出会いは、相手と価値観が合ったところで共通のものを作り出す喜び、それが一番すばらしいことだと再認識させてくれた機会でもありました。

 

次回のテーマは「もう一歩進んだ合奏術を身につけよう」。
大きい音で吹くのは気持ちの良いものですが、それだけでは単調な演奏になってしまいます。メリハリのある演奏をする秘訣を解説します。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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