【新連載】私の録音楽屋日記
皆さん初めまして。今回から「私の録音楽屋日記」を連載させていただくことになりました、ジェイズミュージック代表の昼田純一と申します。
このコーナーでは、私の仕事のひとつであるCDやDVDの制作に関して、レコードプロデューサーとしての苦労話、レコーディング裏話や、知られざるクラリネットの名曲紹介などを取り上げていきたいと思っています。
※内容は2008年発刊当時のものです
昼田純一
Junichi Hiruta
東京工業大学卒業。
(株)オーディオラボ・レコードにて録音ミキサーの重鎮である菅野沖彦氏のもと、主にクラシックとジャズの録音技術を学んだのち、録音エンジニアとしてビクタースタジオに入社。その後同社プロデューサーに転じ、ビクター音楽産業(現ビクターエンタテインメント)、日本コロムビア、トーラスレコード、メルダック(現トライエム)と大手レコードメーカーに24年間在籍。1984年に日本レコード大賞・アルバム大賞受賞。これまでに高橋真梨子、ちあきなおみ、高木麻早、真田広之、小川範子、小野正利、浅香唯などのヴォーカリストや、神山純一(ヒーリング作曲家)、倉本裕基(ピアニスト・作曲家)、川田知子(ヴァイオリニスト)、平野公崇(サックスプレイヤー)などを手掛ける。代表プロデュース作は「桃色吐息」「for you …」「星影の小径」「ミラクル(サンプリング)」「魔女の宅急便」など多数。2003年独立。現在、有限会社ジェイズミュージックにてクラシックからロックまで幅広いプロデュース及びクラシックを中心とした録音やCD・DVD制作を展開中。これまでに、中島啓江、中村誠一(Sax)、クァルテット・エクセルシオ、大政直人(作曲家)、木曽音楽祭、クラリネッテン・カメラーデン、新堀ギター・アンサンブル、など多数制作。現在、中島啓江サウンド・プロデューサーを務めている。4才より母親からピアノの手ほどきを受ける。12才よりクラリネットに転向。音楽大学を目指すが、後に音楽プロデューサーへの道を歩む。 その後スタジオミュージシャンを数年経験。一時楽器を離れるが、アマチュアとして再開。現在市民オーケストラや室内楽で活躍。クラリネットを浜中浩一氏に師事。 日本クラリネット協会常任理事。
開始前の準備、いろいろ
さて第1回目のまな板に乗っておりますのは、新進のクラリネット・アンサンブル「クアットロ・アンチェ」。メンバーは奥田英之、田中香、松田康治、上田奈緒という千葉県出身を共通点とする4人で、2007年11月に第2回のリサイタルを行なったばかりのフレッシュなグループです。リーダー格である奥田氏がレパートリーのほとんどを編曲しているというのもこのグループの魅力的な要素になっています。2007年の12月19日、レコーディングは行なわれました。私は9時に会場入り。音出し練習に余念がないメンバーたちを横目に、せっせと機材セッティングを行ないます。良いCDを作るために必要なことは、メンバーの音楽性や技術力もさることながら、録音セッティング、使用機材、ホール環境、編集などが重要になってきます。
私の録音スタイルとして、「ワンポイントマイク録音」を基本にしています。ワンポイントとは、マイク2本をセットにしてその一式のみで録音する方式です。もちろん場合によってはマルチマイクという、数多くのマイクを立てて録音する方法をとることもありますが、ワンポイントマイク録音のほうが、音のバランスや音色の透明感が表現できるため、実際のホールで聴くような臨場感が生まれます。ただし、少ないマイクで楽器のバランスや音色を正確に記録しなくてはいけないため、マイクセッティングの場所や高さにかなり気を使わなくてはなりません。場所をたった10cm動かすだけで音色が違ってしまいますから。そのため、とりあえず経験的に大体の位置にマイクをセットしたら、後は実際に音を聴きながら最適な位置を決めていかなくてはなりません。この作業に多くの時間と神経を要するため、なるべく早く会場入りする(時にはメンバーよりも早い時間に会場入りすることもある)ことを私のポリシーにしています。