クラリネット記事 Benjamin Mellefont ベンジャミン・メルフォント
  クラリネット記事 Benjamin Mellefont ベンジャミン・メルフォント
[2ページ目]
The Clarinet ONLINE

Benjamin Mellefont ベンジャミン・メルフォント

ベンジャミン・メルフォント
 
 

リヴァプールフィル在籍時に肩を痛める

 
英国王立音楽大学卒業後、イギリスでは長い歴史を誇るロイヤル・リヴァプールフィルハーモニー管弦楽団に在籍されていました。入団して苦労されたこと、驚いたことなどあれば教えてください。
B
リヴァプールフィルには22歳のときに入団しました。最初の仕事というのは皆難しいと感じることが多いでしょうが、とにかく大変でしたね。まず、たくさんの音楽を毎週習得しなければいけないことに驚きました。学生のときは、1ヶ月に1回くらいしかコンサートをしていないので、丸1ヶ月間そのことについて考えればよかったのですが、オケに入ってからは週に2プログラムをこなさなければいけません。そのため、感情的にもあまり深入りできないということがありました。
さらには、実践的な面、例えばいいリードを保ち続けること、いつも練習して常にベストな状態でいること、健康面でもきちんと体調を管理すること、たくさんの音楽を一度に準備することなど、実際にオケで仕事してみないとわからないことがたくさんありました。 ただ、それよりもはるかに難しい事態に直面しました。それは入団して1年ほど経った後に、肩を痛めてしまったのです。神経と筋肉に関係する部分で、何年も悪い姿勢でクラリネットを演奏していたことからくるものなのですが、しばらく休みをいただいて、最終的には治療に専念するためにリヴァプールフィルを去りました。リヴァプールフィルには2年間在籍していましたが、肩のせいで1年しか演奏することができませんでした。
もちろん大変辛い経験でしたが、いいこともありました。それは、身体を基本としてクラリネットを吹くということを深く考えるようになったからです。この経験から、今は健康的にクラリネットを演奏できるようになったと感じています。
怪我したのは、オケの仕事を始めてたくさんの音楽をこなさなければいけなかったからだと思いますか?
B
それは大きいと思いますし、長い間あまり姿勢のことや身体の使い方を考えずにいたので、それが蓄積されてしまったのでしょう。楽器を演奏するときには身体は左右対称ではないので、上手く身体のバランスを保つように心がけなければいけません。
具体的にクラリネットを吹いている時に気をつけなければいけない点はなんだと思いますか?
B
クラリネットの場合、楽器を右手で支えますが、そのほとんどの重さが右手親指にかかります。ということは、右肩でその重みを支えていることになりますよね。 また、幼い子どもがクラリネットを始める時、大人も使うクラリネットしかないため、子どもたちの身体と比べてワンサイズ大きいです。僕より半分の背丈の子どもは、もちろん力も劣りますので、その重さにより右肩が大きく下がってしまいます。9歳からクラリネットを始めた私のように、23年もの間、右肩が下がったバランスの良くない状態の身体で演奏を続けていたので、筋肉は相当なダメージを受けていました。
そのため、私は胸郭出口症候群という病気になりました。これは、首には胸郭出口と呼ばれる神経の筋があるのですが、右肩に負荷がかかることで筋肉が前に出て神経を圧迫してしまいます。そして、それらの神経は腕に伝わっていく。腕の重みを支え、指を正しく自然に動かそうにも、神経がうまく働かなくなり……と連鎖していきます。そうすると、肩、腕、手にしびれや痛み、さらに手が動かしにくくなったりするのです。
その問題を解決するために腕や首をもっと健康的に使う方法を学んで、エクササイズをする必要がありました。
アレクサンダー・テクニークのような特定のテクニックを使ったのですか?
B
いろいろなテクニックを試しました。でも、一番役に立ったのは、シドニーにいる素晴らしい理学療法士から学んだことです。彼は、身体を広げた呼吸の方法をたくさん研究しているセラピストでした。それが回復に最も役立ちました。その理学療法士は、自然な呼吸とでもいうべきことが非常に重要だと伝えてくれました。胸郭を開くことを目的とした呼吸です。そして、体の側面に向かって呼吸することを意識します。この方法は、現在でもプレー中に体を整えるために使っています。この私の経験から多くの人が、演奏時に体に負担がかかるプレーをしていることに気づくきっかけにもなりました。
右肩も良くなり、2019年からイギリスを代表するロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(LPO)の首席クラリネット奏者として活躍されています。入団した経緯を教えてください。
B
リヴァプールフィルを退団した後に、1年間治療のためシドニーに戻りました。その後、ロンドンでフリーランスとして活動を始め、オケのオーディションを受けたりしていました。英国では、オーケストラのオーディショントライアルに長い時間を費やします。長い時は数年かけるところもあるほどです。その期間にオケでの音楽性、また人間性の高さ、オケに合った人物なのか、などを判断していきます。LPO のトライアルは8ヶ月かかりました。そして26歳の誕生日からLPO の団員としてスタートすることになりました。
所属して3年が経ちますね、コロナで演奏できない期間もあったでしょうが、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(LPO)の楽団員のこと、得意とするレパートリーのことなど教えてください。
B
コロナ禍でもLPO は早い段階から演奏活動を再開しました。団員みんながとても近い存在で、いい関係ですよ。忙しいときは常に一緒にいる仲間たちなのでそうでないとね! LPOはとても興味深いプログラムのオケだと思います。LPO首席指揮者のウラディーミル・ユロフスキは、非常に稀な音楽をプログラムします。あまり世に知れ渡っていない現代の作曲家や、よく知られた作曲家でもあまり演奏されていない曲を選曲したりもします。先週はシェーンベルクの初期の作品を演奏しました。先週末は現代のイタリアの作曲家のピアノコンチェルトを録音しました。今日はロード・オブ・ザ・リングの音楽をやりますし、大変バラエティに富んでいますね。LPOは以前よく映画音楽やポピュラー音楽の演奏に携わることが多かったのですが、最近はあまり携わっていません。以前は“バットマン”や、“不思議の国のアリス”も演奏したようです。

 

次のページの項目
・エレクトリック・ミュージックの作曲

 

<前へ      1   |   2   |   3      次へ>      

クラリネット ブランド