フルート記事
西田紀子×多久潤一朗×竹山愛

三響フルート 木管フルート3種を試奏!

Point3 響き方の違い

——オーケストラ、室内楽、ソロなどいろいろな演奏シーンがありますが、聴いている人へ(木管フルートならではの)どのような効果が期待できますか?

竹山 金属製と木製では響きの効果が全然違いますね。

西田 あとは小さめのサロンコンサートをするような場所だと、俄然木製が好まれそうですよね。どんなにパワフルに吹いてもうるさくない気がします。

多久 木管フルートは音が“大きい”ですもん。“強くないけれど大きい”、それがすごいところです。

竹山 自分では遠くまで聴こえているのかすごく不安になっているけれど、プレイバックを聴いてみるとちゃんと聴こえています。人がいてもピアノと演奏しても、聴こえている響きの成分がすごく重要なのだと、木管フルートだとよく分かります。軽く吹いているのにこんなに遠くまで響くものなんだなと。

西田 ヴァイオリンのストラディバリウスと似ていると思う。ベテランの有名な奏者が舞台で弾いていて、周りの人が「やっぱり音小さいね」って言うんだけれど、会場の奥に行って聴いたらその人の音しか聴こえないくらい全然違った、みたいな……。

多久 軽く吹かない場合というのは、基本的に母音の力というか、力を込めて収束させるエネルギーなんですよね。そういうふうに強い音で吹ける楽器となると、やっぱり重さのある金属製になってくるんです。金属製は鳴るんですけれど、奏者が力んで吹いたときにもお客さんに伝わるし、その音は果たして聴きたい音なのか?ということにもつながってきます。逆に木製だとそういう吹き方は無理だし、そもそも向いていない。
音って倍音がぶつかると大きくなるんです。良い例がエレキギターのディストーションで、いろいろな波形の違う種類の倍音をぶつけて音を増幅させます。フルートもそれと同じで、口元の息の音などを入れて一緒に吹くと、音がぶつかってすごく響くんですよ。こういった息を広げる吹き方は、金属製より木製のほうがやりやすいですし、この吹き方を金属製でやると「散ってるな」と感じるんです。金属製で音が散ると勿体ない印象になりますよね。金属製はやっぱり音に艶があって、息が集まってスーッと出たほうが「わ~綺麗!」となる気がするので。

竹山 木製と金属製では自然と吹き方を変えていますね。木管フルートは自然なリアリティがあるのですが、金属製のフルートで同じ吹き方をするととりとめもなくてお聴かせできない音質になってしまうので、それ相応に息のコントロールの仕方を変えるというか。感覚としては違うと思いますし、耳で聴いて作っている部分は大きいと感じます。吹いている楽器によって「こういう音にしたい」みたいな気持ちがあるんです。楽器に合った音を作るじゃないけれど……。

西田 自分が出したい音というよりかは、その楽器が一番鳴るツボを見つけて吹く、吹かされる感じがあります。

多久 本質的に「この楽器はこういうふうな響きや奏法が向いている」というのがあるから、自分にとって理想の音があると楽器ってなかなか替えづらいですよね。自分が楽器に合わせるだけだとストレスになってしまいますし、「何かを一緒にやる人は自分と馬が合う人と」という感覚と同じですね。逆に言うと金属製がずっと合わなかった人の才能が開眼する可能性も大いにあると思います。「音が散ってしまって嫌だ」と悩んでいる人が木管フルートを使ったら、いきなり「私にはこれ(木管フルート)だったんだー!」って解決することもあると思う。

Point4 「良い音」と「いい音」?

——木管フルートを使って演奏してみたい作品は?

多久 何を吹いたって良いんですけれど、僕は世界中の音楽です。民族系でも中国でもインドでも。多分フルートに使われているこの木はアフリカ材ですよね。だから本質的な響きが木製の音色から耳で分かると思うんです。耳で材が分かるというか、そういうサバンナ感とか湿地感みたいなものって、金属製では多分出せないんですよね。だからなんでも演奏してみたいと感じるのではないでしょうか?
最近自分のブログにも書いたんですけれど、僕は「良い音」と「いい音」は違うと考えています。例えば「良い男」と「いい男」であれば、「良い男」というのは非常に健全でおすすめできる男性のことじゃないですか。でも「いい男」っていうのは「あいつと付き合うのはやめたほうがいいと思うよ」と周りから言われてしまうような人のことを表すと思うんですよね。ではどっちが魅力があるか?と言われたら、実は「いい男」のほうなんですよね。毒にも薬にもならない人より、毒気や中毒性があるような。良くない部分が魅力になるんです。
フルートの話に戻ると、金属製フルートに今求められているのは、ノイズを消してまとめて余計なものがなく、いかに効率的にエネルギーを使って音が鳴るか?という部分で、実際それは実現しやすいと思うんですけれども、木管フルートってそれと逆のところに魅力があるんですよね。散っている音色だったり、低音と高音の音量の差だったり。一見するとだめかも?と感じる部分がなぜか魅力になっているのが木管フルートの面白いところだと思います。

竹山 そうですね。私も基本的には何でも吹いてみたいな、合わせてみたいなと思います。そういう差も楽しみたいですね。
今回はせっかく3種類の楽器があるから、クラシックの作曲家だったらそれぞれどれが似合うかな?というのを考えていて、明るさと吹奏感からモパネはモーツァルトだと思ったんです。音が乗る感じがあって、吹いてみてオペラなどがすごく楽しくて。グラナディラはバッハとかメンデルスゾーンとか宗教系なイメージだし、先ほど多久さんが仰ったワールド・ミュージックも合うと思う。そしてこのピンクアイヴォリーで何ができるかなと思ったときに、オールマイティなのでしょうけれど、よりナチュラルな方向で演奏したい作品に合うのかなと思います。オーケストラも室内楽も対応できるように金属製になっていったわけですが、実際に演奏する中では艶っぽい音じゃなくて、もっと優しい音――高い音であっても優しい音をください、みたいに要求されることもあるんです。世界的にみても木管フルートを吹いている人も多くなってきているし、作品ごとに替えて吹いている人もいらっしゃいますよね。ピンクアイヴォリー、お二人はどんなクラシックの作曲家をイメージしますか?

多久 カルメンとかかな。乾燥と逆で、艶がある感じの……。

竹山 色がある雰囲気の作品ですね。

西田 私は何の作品をというより、室内楽などで他の木管楽器とたくさん絡んでみたいです。木製同士だから、木と木が出逢うみたいな。実際にアンサンブルしてみて「あぁこうやって重なるんだ」みたいな、今までにはない発見があったので。この楽器単体の音がどうというより、アンサンブルで重なったときに興味があります。

竹山 フルートと合わせるほかの木管楽器は、グラナディラ製が多いですよね。違う素材になるとアンサンブルをしたときにも違うものになるんでしょうか?

多久 今はクラリネットもモパネとかがあるし、これからスタンダードになってくるかもしれないね。

西田 なんとなく木製って倍音が整えられる気がする。弱音器じゃないけれど、いろんな響きがあるのを少し整えるから、スッと通るというか。広いところでバッと吹いたときに、多分いろいろな音程を吹いているんでしょうね。そうすると汚く聴こえてしまう。でも木管フルートでちゃんと音程を狙って吹くと、返ってきた音が通る感じがして、音程がいいというか、一つの音色の中に音程の良さがある。そういったことがやりやすい楽器なのかなと思います。

——木製フルートで現代音楽や特殊奏法を吹かれたことはありますか?

西田 多久さん、演奏されていませんでしたっけ?

多久 やっていますよ。まったく問題ありません。

♪~(実演)

竹山 可愛い音~!

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