【Vol.201先行配信】ONLINE限定完全版

大嶋義実×岡崎明義 特別対談「第11回 アジア・フルートコングレス神戸2024」

今回はいろいろなプログラムがあると思いますが、聴きどころは?
大嶋
まずは神戸国際フルートコンクールで最年少で優勝したユ・ユアンさんの演奏で、最終日にカール・エマニュエル・バッハの『フルート協奏曲』をやります。2・3日目にはミン・ルオファンさんの演奏もありますから、これはぜひ聴いていただきたいです。
プログラムを見ていただくと、モーツァルトやバッハがあったり、ドップラーがあったり、武満徹もあったり、いろいろ演奏するのですが、3日目に江文也さんの『祭典ソナタ』を演奏します。ここは私が一番強調したいところで、この方は日本であまり知られていませんが、実は戦前の日本で大活躍した、日本が台湾を併合していた時代の台湾出身の作曲家です。戦前の日本音楽コンクールの声楽部門で入賞して、最初は声楽家として活躍されていたけれど、そのうち作曲家に転向します。作曲家として非常に有名になって、当時若手の中ではピカイチの存在だったんです。ところが戦争が始まった頃に日本軍の方針で「北京の音大の先生になれ」と言われて、北京に渡ってしまったんです。北京に渡ったは良いけれど、そうこうしているうちに戦争が終わりました。元々台湾出身の彼は、そこで日本国籍を失って北京に滞在し、日本に帰って来られず忘れられてしまった、という作曲家なんですね。
実はお嬢さんが日本に住んでいらっしゃって、この『祭典ソナタ』の原譜を持っていらっしゃるとのことでした。元々フルートとピアノのソナタなんですけれど、それを我々の仲間の江戸聖一郎先生がフルートオーケストラとフルートのために編曲してくださいました。それをお嬢さんにも聴いていただき「とてもいい編曲ですね」とお墨付きをいただいています。日本で演奏するのは多分3回目くらいですが、ぜひ聴いていただきたいですね。
この江文也さんに関してはもともと台湾出身ということもあって、台湾でもすごくリバイバルしています。彼のオーケストラ曲を全曲録音するというプロジェクトを、台北のオーケストラが今やっているところです。
先程の話に戻りますが、8月10~12日というのは終戦記念日の直前ですよね。今から70数年前に台湾は日本に支配されて、中国と戦争して韓国も併合して……と、そういう時代に生き、本当に複雑な人生をたどった江文也さんのこの作品を、正に終戦記念日の直前にこうしてアジアの方々とみんな一緒になって演奏できるというのは、フルート業界や音楽業界だけじゃなくて「我々はこういうことができるんだ」ということを社会に向けて発信できる、今回一番のメインになるのかなというふうに私は考えているんです。
『祭典ソナタ』は江文也さんが一番幸せだった頃の作品だというふうにお嬢さんが仰っていました。だから非常に明るい曲で、深刻な音楽ではないんです。それゆえにその後の江文也さんの生涯を知っている者としては「一番幸せなときにフルートのために作品を残してくれてありがとう」という思いしかないですね。
岡崎
3日間のプログラムそれぞれ本当に特徴的です。初日は各国あるいは日本の関西・関東によるアンサンブルのステージですね。それぞれの国のアンサンブルで、皆さんに知られた曲などいろいろな作品をやりますが、これから始まるという挨拶代わりのようなプログラムになっています。
2日目はアジアフルート連盟の創設、そしてフルート界に貢献した金先生の追悼プログラムです。先程もお話ししたとおり、2020年に「アジアコングレス神戸」で開催予定でした。コロナ禍のためコングレス中止の連絡を金先生にしましたが、体力的にやっぱりあれが最後だったと、あとからご子息にお聞きしました。電話越しから感じ取られる金先生の思いが僕も胸に突き刺さっていましたので、なんとか先生を想うステージを考えていただきました。2020年のときは金先生のステージを作って、いろいろなお話をしていただいたくようなプログラムにしていたんですけれど、今回は金先生に直接学びを得られたプレイヤーが一堂に会して、一晩中演奏していただきます。
最後の3日目は、参加された各国の皆さんとのコラボレーションステージです。ただ会場が狭く参加者がすごく多いので、今までは降り番・乗り番があまりなかったんですけれど、今回はオーケストラでも降り番があったり……楽しみ半分、不安半分ですね。演奏担当の先生が今頭を悩ませているはずです(笑)。
けれどもプログラムは素晴らしい内容だと思いますし、今回初めて参加する方々もいらっしゃるので、僕としては嬉しいなと思っています。
AFF集合写真
今後コングレスという催しとして、新しい企画やプログラムなど、なにかやってみたいことはありますか?
大嶋
企画としてやりたいというのは、今やっていることがすべてだと思うんですね。今日はあまり話に出ませんでしたが、初心者のためのフルート入門のようなワークショップをやってみたり、マスタークラスではそれぞれ音大で勉強している生徒を、例えば日本の先生が韓国の生徒を、韓国の先生は台湾の生徒を……みたいに、各国の先生と生徒たちが教育レベルでも交流していく授業は続けていけるといいなと個人的には思っています。
岡崎
やっている授業を皆さんに知っていただいて、たくさんのお客さんに来ていただけたらいいなと思います。
最後に、アジアフルート連盟は今後どういう活動や展望を考えていらっしゃいますか?
大嶋
一つは今回日本で開催しましたので、次回は台湾でやろうじゃないかという話が進んでいます。台湾の次は韓国でやろうという話も出ていますが、やはりこれまでやってきたように、各国の持ち回りで開催していきたいですね。
これは私のまったく個人的な希望なのですが、今加盟しているのが台湾、韓国、中国、日本、シンガポールで、いずれはそこにマレーシアやフィリピンなども加盟してほしいという希望を持っています。
岡崎
大嶋先生が仰ったとおり、開催地の変化が必要かどうかは分かりませんが、やっぱり各国で開催するというプロセスが一番大事かなと思います。
加盟していない国にはベトナムなどもありますね。ベトナムにどこまでフルートの世界があるか分からないけれど。2018年にベトナムとカンボジアで演奏してきましたが、向こうの人たちはびっくりしていました。バスフルートを目にすることなんてそんなにありませんから。カンボジアはシェムリアップで演奏してきましたが、フルート業界はどうかなぁ。希望は失わないでいきたいですよね。
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