サックス記事 田中靖人&谷中 敦 ジャンルの垣根を飛び越えた   バリトンサクソフォン対談が実現!
  サックス記事 田中靖人&谷中 敦 ジャンルの垣根を飛び越えた   バリトンサクソフォン対談が実現!
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THE SAX vol.103

田中靖人&谷中 敦 ジャンルの垣根を飛び越えた バリトンサクソフォン対談が実現!

ARTIST

ソリストとしての活躍とともに、東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスターを務め、さらには日本最高峰のサクソフォン四重奏団であるトルヴェール・クヮルテットではバリトンサクソフォンを担当する田中靖人。そんな彼が開発に携わったのが、1994年以来26年ぶりのモデルチェンジとなったヤマハのバリトンサクソフォンだ。そこで今回は、これを機会に豪華なバリトンサクソフォン対談を企画した。ゲストとして招いたのは、今や本邦NO.1のインスト・バンドである東京スカパラダイスオーケストラから、グループの顔とも言えるバリトンサックス奏者の谷中敦だ! アーティストパワーも体格も、そして楽器も大きな、まさにビッグ対談!! 初対面となる二人だったが、バリトン愛に溢れるトークが弾んだ。
(写真:土居政則/協力:株式会社ヤマハミュージックジャパン、株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ)

何と初対面!

お二人は初対面ということですが、お互いの存在はどのように感じていましたか。
谷中
田中さんの演奏は以前から聴かせていただいていますが、もう本当に尊敬しかないですね。YouTubeでモンティの『チャルダッシュ』の演奏を聴かせていただいたときは、こんなふうに吹けたらさぞや楽しいだろうなと。素晴らしいです。本日は田中さんにいろいろ教わりたいと思いながらここに来ました(笑)。
田中
東京スカパラダイスオーケストラの演奏は『Paradise Has No Border』など、テレビでも映画でも街中でも、気づけばもうそこかしこで流れていますよね。昨日もスカパラのアルバムを聴いたのですが、スカのリズムがずっとループして頭から離れないし、うちの娘なんて踊って止まらなくなってしまって(笑)。スカパラは谷中さんのバリトンがリードしている様子が常に聞こえますよね。バリトンサクソフォンはものすごく奏者の個性が出る楽器ですが、谷中さんの音も聞けばすぐに谷中さんとわかります。
谷中
そんな、お誉めいただいて……今までやってきてよかった(笑)!

バリトンサクソフォンとの出会い

お二人がバリトンを吹くようになったきっかけをお聞かせください。
田中
僕は中学校で吹奏楽部に入った時、最初はテナーサクソフォンを吹いていたのですが、その当時の先輩がジャズ好きで、その影響でどちらかというと吹奏楽よりもジャズが好きでした。「秋吉敏子&ルー・タバキン・ビッグバンド」でバリトンを吹いていたビル・パーキンスさんのソロを聴いて、その暖かくてダイナミックな音色に衝撃を受けましたね。これが最初のバリトンとの出会いです。その後ジェリー・マリガンも好きになって聴きました。彼の音色はパーキンスとはまた違って、もっとタイト。最初はテナーかなと聴き間違うくらいの音色でまた驚きました。
その後、音大受験に備えてアルトを吹くようになり、音大に入ってからは室内楽や吹奏楽の授業で持ち替えをするようになりました。そんな中、吹奏楽の授業で初めてバリトンを吹きましたが、「こういうサクソフォンもあるんだ」と驚いたことをよく覚えています。ソプラノ・アルト・テナーは同属楽器としての関連性を感じるのですが、バリトンはどうもそれらとは勝手が違う。そのまま吹いただけでは言うことを聞いてくれず、しっかりツボに当てながら吹かないとコントロールできない印象が当時はありました。よりオープニングが広く、息がまっすぐ入るマウスピースにしてからは素直に吹けるようになりましたが。
谷中
これはいつも話すエピソードなのですが(笑)、大学生の時に一緒にバンドをやっていたリズム隊のメンバーがスカパラにそのまま吸収されてしまって。当時、自分はヴォーカルだったのですが、スカパラのリハーサルを見に行ったらすでに歌を歌っているメンバーがいて、どうやらお呼びでない。どうしようかと思っていたら、当時のリーダーに「谷中さん背が大きいしバリトン似合いそうですね」と。そこで、次の練習に御茶ノ水でバリトンを買って持っていったわけです。もちろんその時点で楽器の経験はほぼなく。ただ、楽器屋で吹けないのにバリトンを構えた時に、すごくしっくりきて「あ、これはいけるかも」と(笑)。そのあと随分経ってから聞いた話ですが、デューク・エリントンがとあるインタビューでこんな名言を遺されたそうです。「楽器が似合うか似合わないかで、その奏者の運命は80%決まる」。デューク・エリントンが言うなら間違いないだろうと、それを励みに生きています。
お二人にとってのバリトン奏者のアイドルはどなたでしょうか。
谷中
個人的に一番好きだったのはロニー・キューバーさんです。歌心があって素晴らしいですよね。ニック・ブリグノーラさんと一緒に演奏されているアルバムもいいですよ。先ほど田中さんも挙げられたジェリー・マリガンさんもいいですし、サージ・チャロフさんはすごく色気のある音ですよね。
田中
クラシックのバリトンで言えば、一番初めに聴いた(ダニエル・)ディファイエ・カルテットのジャン・ルデューさんですね。皆そこを目標にしているようなすごいカルテットでした。ルデューさんは最近亡くなられましたが、比較的最近まで演奏活動も続けられていましたね。

バリトンサクソフォンの役割

田中さんはトルヴェール・クヮルテットのバリトンサクソフォン奏者として長く活動されていますが、カルテットにおけるバリトンの存在とはどのようなものなのでしょうか。
田中
バリトンの位置から感じる音の景色が私は好きですし、バリトンが自分にとって一番居心地が良く感じますね。もちろんカルテットにおけるバリトンの役割はリズムを刻むこともあれば、ポリフォニーで4本が対等に演奏することを求められることもあります。以前、本多俊之さんをお招きして5人で演奏会をしたことがありますが、その時はベースやドラムのような楽譜を渡されました。自分がしっかりしていないと成り立たないような重要な役割でしたが、それもまたバリトンの面白さですよね。
谷中さんはスカパラでのバリトンの役割をどう感じていますか。
谷中
役割というよりは、もともといいサウンドを作ってくれる先輩方がいて、自分はゼロからのスタートなので、とにかく存在感を出そうと必死にやってきただけですね。その結果、今ここにいるわけです。
田中
音の存在感は一番だと思いますよ。耳がやはり谷中さんの音に行きますから。
谷中
本当はセクションで吹いている時にセーブしてソロで大きく吹きたいといつも思っているんですけれど、セクションの中で勢いや興奮する成分を出したいなと考えてしまうので、ソロは小さくなってしまうんですよ。
田中
音楽的にスカだとテンションを下げられないですよね。あのハイテンションがあるからこそ、踊りたくなる音楽に仕上がっているんだと思います。
谷中
そうですね、ダンサブルであることはとても大事ですし、心がけているところですね。ステージ上ではエンターテイメント的に動いてなんぼだと思って、アクションをつけながら昔からやってきました。海外でもスカパラが受け入れてもらえているのは、そこも大きいのかもしれません。

可能性あふれる楽器

最後にバリトンサクソフォンを演奏している本誌読者へメッセージをお願いします。
谷中
30年前に初めてバリトンサックスを手にした時からすごく可能性のある楽器だと思っていましたが、それから30年経って、その可能性を信じてくれる人がもっと増えているように感じています。リズムを刻むのはもちろん、リード楽器としても素晴らしいということを多くの方に感じてほしいですね。先程、田中さんがおっしゃっていましたが、(バリトンサックスは)セクションの骨格だったり、リズムの要的な部分がありながらもリードも執れる「出る時に出られる楽器」というのがバリトンサックスの性格を良くあらわしている名言だと思いました。
田中
いま谷中さんがおっしゃった、「バリトンはリズムもメロディもできる」ということを、吹奏楽やクラシックを演奏している人たちにも伝えたいですね。中学生のソロコンテストなどでも驚くような演奏を聴くことがありますし、若手のレベルが昔よりも格段に上がっていることを感じています。フラジオを使ってチェロ曲を演奏することも増えてきましたし、ぜひバリトン奏者の皆さんにはもっとソリスティックな可能性を拡げていってほしいと思います。
ありがとうございました。

次ページにインタビュー続く
ヤマハバリトンサクソフォン新製品 YBS-82 / YBS-62 / YBS-480の開発秘話に迫る! 田中靖人 × 竹村直哉 × 谷中敦

登場するアーティスト
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田中靖人
Yasuto Tanaka

1964年和歌山市に生まれる。 国立音楽大学在学中、第1回日本管打楽器コンクール第2位、第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。 1990年東京文化会館でデビューリサイタルを開催。以来、国内外でリサイタルなど幅広い活動を行なっている。東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団など、ソリストとしてオーケストラとの共演も多数。 2000年より(一財)地域創造主催の「公共ホール活性化事業」のアーティストとして、リサイタル、アウトリーチ コンサートも意欲的に行なっている。2003年和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。 ソロ・アルバムに、1991年「管楽器ソロ曲集・サクソフォーン」(日本コロムビア)、1995年「ラプソディ」(EMI music japan)、1997年「サクソフォビア」(EMI music japan)、2003年「ガーシュイン カクテル」(佼成出版社)、2012年「モリコーネ パラダイス」(EMI music japan)をリリース。 また、サクソフォーン四重奏団 トルヴェール・クヮルテットのメンバーとして活躍し、これまでに10枚を超えるアルバムをリリース。2001年文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。 現在、東京佼成ウインドオーケストラコンサートマスター、国立音楽大学、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学、桐朋学園大学各講師、札幌大谷大学客員教授、名古屋音楽大学客員教授。

登場するアーティスト
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竹村直哉
Naoya Takemura

1979年生まれ。中学入学と同時にクラリネット、翌年よりアルトサックスを始める。早稲田大学入学後は、早稲田大学ハイ・ソサエティ・ジャズ・オーケストラに所属。学生時代よりプロ活動を始め、現在はバリトンサックスを軸としたマルチリード奏者として、数多くのビッグバンドや小野リサ、挾間美帆らとのライブや、スタジオワーク、ミュージカルなど幅広く活動中。これまでにDreams Come True、Superfly、BoA、鈴木雅之、マンハッタン・トランスファーらをサポート。

登場するアーティスト
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谷中敦
Atsushi Yanaka

1966年生まれ。アメリカ、ヨーロッパ、南米、アジアと世界を股にかけ活躍する大所帯スカバンド、東京スカパラダイスオーケストラのバリトンサックス担当。スカパラのヴォーカル曲の主な作詞を手掛け圧倒的支持を集めている。他アーティストにも作詞家として、KinKi Kids『ルーレットタウンの夏』、EXILE『空から落ちてくるJAZZ』、矢沢永吉『白い影』などを提供。また、アパレルブランド「Instant Fame」のプロデュースなど活動は多岐に渡る。

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