サックス記事 ダウンロード音源連動インタビュー│AKIマツモト&彦坂僚太
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THE SAX vol.104[特別全文掲載]

ダウンロード音源連動インタビュー│AKIマツモト&彦坂僚太

MUSIC

卓越した集中力で収録

今回のレコーディングはどんな感じで進みましたか?
AKI
私の家に来てもらって収録しました。彦坂くんは大荷物になったけど、機材を全部持ってきてくれました。
彦坂
収録自体は9時間ぐらいかな。マツモトさんは尋常じゃない集中力で臨んでいました。
AKI
今回マイナスワンという形だったので、演奏会やリハーサルで弾くのとは心構えが違いましたね。演奏会だとライブ感を大切にしますが、今回はピアノだけということもあってミスできない(笑)。演奏会やリハーサルでは音を間違えることには注意をあまり向けませんよね。それで何度もテイクを重ねたところもあります。
伴奏をソロで弾くとなると、サックスとタイミングを合わせないといけない部分はどのようにしましたか?
AKI
今回収録した3曲は何度も弾いた曲なので、自分の頭の中でサックスのパートを歌いながら弾きました。実はプレイバックしたときにすべてのテイクが同じ速さだったんです。
彦坂
どのテイクも音の波形が全部同じで、こんなことがあるんだとびっくりしました。この音源をまずピアノの音だけでじっくり聴いてほしいですね。
確かに伴奏の音の構造を耳で確認できるのはこのダウンロード音源ならではですね。
彦坂
そうなんですよ。合わせ(リハーサル)のときに、伴奏者に「ピアノだけで一度弾いてください」と失礼なことは言えませんから(笑)。
今後はこういう形の音源が増えるかもしれませんね。クレストンはピアノ奏者ではないので、ほしい音を書いていったようで、ピアニスト的にはとても弾きにくい楽譜なんだそうです。だからピアノだけを聴くと勉強になります。
AKI
クレストンのコンチェルトは、もともとオーケストラの曲なので特に弾きづらいですね。
彦坂
ピアノ譜は完全にコンデンススコア状態のようで、これが弾けるというのはピアニストのステータスになっているそうです。このダウンロード音源はお得3曲セットだと思います(笑)。
ダウンロード音源を聴いてピアニストの大変さも知ることができますね。
AKI
私は大学で羽石道代先生など、とても伴奏のうまい先生や先輩方がたくさんまわりにいたので、その方々の演奏を聴いて参考にしてきました。大学生のときに教えてもらったから今があると思っています。私はとてもいい環境で伴奏の勉強をできたのですが、そうでないけれど伴奏をする方には参考にしてもらえると嬉しいですね。

無理だと思わないことが自分の引き出しを増やす

マツモトさんがサックスの伴奏で一番最初に演奏された曲は?
AKI
クレストンですね。前号の連載のよもやま話でも書きましたが高校1年のときでした。 難しくてかなり苦労したんですけど、ピアノの専攻生はベートーヴェンやショパン、バッハなどを一生懸命練習してきたから、それこそ「クレストンとは何?」という感じでしたし、楽語がイタリア語ではなく英語で書かれているのも衝撃でした。
今でこそ「サックスの伴奏をやっています!」と大きな声で言えますが、大学の頃まではいっぱいいっぱいでした。弾き慣れてきたのは卒業して1、2年経った頃ですね。大学時代は専攻のバッハやベートーヴェンをおろそかにしてサックスの伴奏練習をしていました(笑)。
サックスの伴奏はテクニック的に難しいものが多いですね。
AKI
サックスは新しい楽器なので、いろんなジャンルが入っているから、ピアニストにとっては音楽的にとっつきにくいのかもしれません。クラシック的な要素だけでは説明できないところがあります。
私はもともとスパルタ的に練習する環境ではなかったので、芸高に入っても周りの友人のほうがうまかった。でもポップスやジャズも好きだったから、クラシック以外の音楽も自然なものとして受け入れることができた、ということがサックスの伴奏が好きな理由かもしれません。
演奏会のときは、ソリストの背中から意志をどのように感じ取っていますか?
AKI
もちろん見て確認をしますが、やはり音や息遣いを聴きますね。たとえば、息の方向性やヴィブラート、ブレスの種類です。それでお互いに音でコミュニケーションするのが理想です。
話が少し違うかもしれませんが、大学生のころ羽石先生の伴奏を聴いて、私はどうしたら伴奏で生き残れるのだろうかと考えていました。音楽的にはかなわないから、とりあえず入るタイミングだけはソリストに絶対にぴったり合わせようと思ったのです。そのためマウスピースをくわえる口の様子や、キィを押さえるところを見て合わせていました。
彦坂
すごい洞察力ですね。
AKI
当時は相手の息遣いだけで合わせることが難しかったんですよ。今は見なくてもわかってきた感じはします。もちろんソリストの背中や表情も見るようにしています。雰囲気や緊張は顔を見ないとわかりませんからね。出てくる音と視覚的な情報、両方で意志を感じ取るようにしています。
彦坂
ピアニストの視点の話は聴いたことがなかったから参考になります。
これまでにソリストから無理難題な要望などはありましたか?
AKI
なかったかな。例えば自分がマックスの音量で弾いていても、ソリストから「もっと大きな音がほしい」と言われたらもっと聴こえるようにタイミングやハーモニーのバランス、打鍵の速さを変えればいいと思っています。そういう発想の転換は絶対に必要なことなんです。でもちょっとむずかしいと感じたのが抽象的なイメージを要求されること。ただそれも自分がソリストのやりたい音楽を察知できていないから要求されるのだと思って、考えて試行錯誤をしていたらいろんな引き出しが出せるようになりました。その結果表現力がついたのだと思います。だから無理難題を無理だと決めつけないことが大事ですね。

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