サックス記事 ハードラバーの系統。
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アルトマウスピース吹き比べ聴き比べ ON THE SAX53特集

ハードラバーの系統。

GEAR

アルトマウスピース、メイヤー系とセルマーソロイスト系のハードラバー20本を吹き比べ聴き比べはアルトプレイヤー多田誠司によるプレーズ試奏がTHE SAX53のCDに収録されている。

メイヤーとセルマー ソロイスト、そのマウスピースの特徴

今回、本誌での特集はアルトのハードラバー系マウスピースの中でも定番として昔から人気の高い“メイヤー”。ケニー・ギャレットの使用によりヴィンテージから火が付き、本家セルマーから再販された“セルマー ソロイスト”。

この2大巨頭マウスピースと、その流れをくむマウスピースのなかでも、最近特に気になる20本(メイヤー系、セルマー ソロイスト系)を編集部がセレクト。 それらマウスピースを本格派アルト奏者多田誠司氏による試奏が実現した。
本誌では、各マウスピースに対する氏のコメントの他、多田氏書き下ろしのFのブルースで、各マウスピース(20本)を多田氏自らの演奏でCDに収録。見事に違いを聴き比べることができるので、本誌を見て聴いて、是非自分好みの逸品を見つけ出してほしい。では、取材当日、多田氏の試奏や収録に際して、編集部が感じたことを中心にお伝えしましょう。

<MEYER マウスピースの特徴>

アルトのハードラバー系マウスピースの定番といえば、まずはなんといってもMEYER(メイヤー)でしょう。艶やかで張りのある音色とストレスのない吹奏感を特徴とするメイヤーは、キャノンボール・アダレイやフィル・ウッズ、ルー・ドナルドソン。日本を代表するアルト奏者、渡辺貞夫など多くのジャズプレイヤーの他、クロスオーバーの開祖グローバー・ワシントンJr.など、ジャズやフュージョン系の多くの奏者に使用されています。

<SELMER Soloist マウスピースの特徴>

個性的な音色が人気のケニー・ギャレットの使用により、多くのジャズアルト奏者の関心が集まったのがセルマーのソロイスト。といってもギャレットが使っていたのは1950〜1960年代に製造されていたもので、いわゆるヴインテージマウスピースです。そういったヴィンテージソロイストの人気の高まりを受けてのことなのか、2000年代には本家セルマー社からソロイストの復刻版が発売されました。現行セルマーのS90やS80シリーズマウスピースのチェンバー形状がスクエア型なのに対し、セルマーのソロイストはヴィンテージも復刻版も馬蹄型で、音色や吹奏感もよりフレキシブル。プロ奏者の使用率は、復刻版よりもヴィンテージのほうが高いが、復刻版ソロイストもジャズ奏者を中心に確実に使用者を増やしています。

<バズについて>

今回のマウスピース吹き比べ企画に限らず、楽器本体などの吹き比べ企画などでも、音色を表現するとき、「シャリシャリ」、「キラキラ」、「ザワザワ」、または「雑味のある音」といった単語が良く出てきますね。この「ザワザワ」とは、金属的な成分を含んだ倍音を指し、バズと呼ばれます。このバズが音のコアに付帯した音色を多くのジャズサックス奏者は好む傾向にありますが、アルトよりもテナー奏者のほうが、このバズを含んだ音色に対するこだわりや意識が強いように感じます。例えば、ジョン・コルトレーン(Ts)などの音を聴くと、このバズを確認しやすいかもしれません。
バズを具体的に表現するなら、個人によって感じ方が違うかもしれませんが、ラジオをチューニングするときに出る「ザー」という音がイメージに近いような気がします。アルト奏者でバズを含んだ音を確認するなら、ルー・ドナルドソンやフィル・ウッズ。日本のプレイヤーでは本誌連載でもおなじみの大森明などがわかりやすいと思います。各奏者に共通するのが、アンブシュアはファットリップで、使用しているマウスピースはやはりメイヤー。
メイヤーは、伸びやかで艶っぽい音色に加え、バズの効いた音色も表現しやすく、音色レンジの広いマウスピースといえるでしょう。

<個体差について>

同メーカー、同モデルとはいえ、マウスピースには製品一つずつに個体差があります。
マウスピースの試奏企画の際、ご協力いただけるメーカーさんには、同一モデル、同一番手のマウスピースを数本お借りして、その中から奏者に良いものを選んでもらい試奏に臨んでいただくこともあります(在庫の関係で、不可能な場合もあります……)。今回は、RPCやウッドストーン、Drakeなど、ハンドメイド系のマウスピースをいくつか取り上げましたが、ハンドメイド系のマウスピースは、音の鳴りの良し悪しといった個体差というより、一つずつ音色や吹奏感に個性がある印象です。
例えばRPC。今回メーカーさんにRPCを2本お借りしたんですが、多田氏が試奏・レコーディングしてくれたものはキラキラとバズの効いた明るい音色を特徴としていましたが、もう一本は、とてもハスキーで、ダーク。ややくもったような音色で、どちらかというとメイヤーというよりも、オットーリンクのハードラバーに近いような音色の印象でした。
やはり、ハンドメイド系、ハンドフィニッシュ(注)系のマウスピースは、1つの個体だけで特徴を判断するのは、量産型のマウスピース以上に難しいのかもしれません。
このRPCは、アメリカをはじめ、現在多くのプロ奏者に、人気のあるマウスピースだと聞きますが、生産数が少ないためか、まだ日本では特に人気が高いマウスピースと言った印象ではありません。音色はとてもクリアで、バズィ。お値段は3万円台ということなので少し高めな気もしますが、製品精度も高いし、今後日本でもさらに人気が高まるかもしれませんね。要注目のマウスピースです。

(注)多くはコンピュータ制御されたCNC旋盤を使い、その後ハンドフィニッシュというように、製品精度を高め個体差をなくすことを追求したハイテク&職人技で製造された半ハンドメイドと呼べるようなマウスピース。

<現行マウスピースとヴィンテージマウスピース>

巷でよくささやかれるのが、ヴィンテージマウスピースは、エボナイト(ハードラバー)の質が良く、ていねいな仕上げが施されていたのに対して、現行品は量産品で質が落ちたといった噂です。果たしてそうでしょうか?
まずは、マウスピースの原材料についてですが、本誌の他の企画で、エボナイトの製造行程を取材した際、エボナイトは天然ゴム、硫黄、エボ粉といった原料で出来ており、少なくともここ何十年もその作り方は変わっていないそうです。昔のエボナイトは、水銀をはじめ体には有害とされる不純物が入っていて、「そういった成分こそが音色を左右させる」といったことがささやかれたりしていますが、では一体何時までその水銀が使用されていたんでしょうか?
この“昔のハードラバーの質が良かった”説は、しっかりと調べた上で、マウスピースの音色との関係性を語る必要がありそうです。
それと、現在のエボナイト(ハードラバー)は、天然由来のゴムの他に、石油系のプラスチックなどが配合されているのでは?といった疑問も耳にすることがありますが、これも熱硬化性のエボナイトと熱可塑性の石油製品の製造工程の違いをみれば、可能性としては考えにくいことです。
では、マウスピースの造り自体はどうでしょうか?例えば、メイヤーを観察してみると、ヴィンテージのN.Yメイヤーも現行メイヤーも、同じトランスファー(圧縮注入)成形。いってみれば、「エボナイトをある程度熱し、型に流し込んで造る」といった作業内容に変わりはなさそうです(詳しくは52号 P62〜P63参照)。ただし、その後のハンドフィニッシュについて……。これは、昔の製品に見られるクラフトマンシップが現行品では感じられない部分が確かにあります。高い技術が必要とされるバッフル部分の形成など、ヴィンテージの美しいロールオーバーバッフルに対し、現行品は、そこまで高い完成度は感じません。これは、メイヤーに限ったことではなく(むしろメイヤーは良いほうだと感じます)、量産タイプのマウスピースに多く感じることです。昔は楽器のことを知り尽くし演奏も達者だった製作者が、ハンドフィニッシュを行なっていたのに対し、現在は、サックスのことを良く知らない人たちが造っていたりするのかな?などと想像できなくもありません。
とはいえ、現在、市場で品質の良いヴィンテージマウスピースを探すのは困難といわれています。同様に現行のマウスピースでも自分に合ったものを探すのは難しく、また、同メーカー、同モデルにも個体差が存在します。
「ヴィンテージと現行品で品質に違いがあるか」の結論については、原料など成分分析を行なってみないとわからないのと、製造に関してはその当時の製作者に訊いてみないとわかりません……。
しかし、ヴィンテージにせよ現行品にせよ、マウスピース選びの方法としては、気に入ったマウスピースをみつけ、それを基準に、それよりさらに良いもの、そして自分に合うものを追い求め続ける。
または、ある程度自分の気に入ったものをみつけられたなら、時間をかけてそのマウスピースを吹き込んでいき、そのマウスピースに慣れること。そしてマウスピースに合った吹き方を模索していく。このどちらかの方法に尽きるのかもしれませんね。

 

 

 

 


多田氏の収録を実際に聴いて、
印象に残ったマウスピースをいくつかピックアップしてみました。>>

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