ジャズテナー エリック・アレキサンダー
THE SAX 54 特集「進化するジャズテナー」インタビュー完全版
三木 それでは、もうすでに答えの一つは出ていますけど、今までに最も影響を受けたプレイヤーを3人挙げるとすると誰ですか?
エリック それは難しい質問だな。現時点の自分にとってと言うなら、そうだな、ソニー・スティット、ジョン・コルトレーン、ジョージ・コールマンだ。いや、待てよ、デクスター・ゴードンからは、ある意味もっとも影響を受けたと思う。特に若い頃にね。そしてその後 彼に似ないように吹くためには長い時間がかかった。もちろんデクスターが嫌いになったんじゃなくて、ただ「僕には出来ない」からだ。あんなふうに吹くのは とても無理でストレスに感じたからだ。この4人と言っても良いんだけど、ほぼ同列くらいにハンク・モブレーやジョー・ヘンダーソンもいる。
三木 ジョン・コルトレーンについては年代によって随分変わるのでは?
エリック いや、僕にとってジョン・コルトレーンはどの年代も同じように重要だ。たとえフリーをやっているものでもだ。正しい表現かどうか判らないけど、 彼のプレイは言ってみれば「仏陀の教典」のようなものだ。どのページを開いてもそこには「意味」と「教え」があり、それを僕は参考にしている。例えば彼の「至上の愛(A Love Supreme)」(’64年録音 コルトレーン中後期の代表作)のどの8小節をとっても、それを僕のプレイに活かすことが出来る。それくらい彼のアイデアは純粋で意味深い。だから年代は関係ないのさ。
三木 わかりました。では、若い人たちには最初に誰を聴くように薦めていますか?
エリック そうだな、僕の意見としてはビバップがジャズの語法の基礎となっていると思う。多分僕だけじゃなく、このように思う人は多いだろう。中にはビ バップより更に古い音楽に遡って勉強すべきだという人もいるけど、僕は必ずしもそうは思わない。ジャズを志す生徒はコールマン・ホーキンスからそれ以降を 聴いていけば良いと思う。
ただ、特に、コード・チェンジとそれに沿った8分音符のラインの明確さという意味では、何といってもソニー・スティットとハンク・モブレーだろう。全ての音がとてもクリアに解りやすくコード・チェンジを表現している。聴いているだけでとても勉強になるよ。これは彼らの吹いている事が簡単だという意味ではない。クリアなんだ。
それと、多くの若いプレイヤーが見過ごしてきた素晴らしいプレイヤーもいる。例えばエディ・ハリス。若い人たちはあまり彼を聴いていないようだが、たとえば「ファンキー」ということで言えばエディ・ハリスはおそらく誰よりもずっとファンキーなんじゃないかな。その他にも見過ごされてきたプレイヤーとして、 長年カウント・ベイシー・オーケストラで活躍したフランク・フォスターもいる。彼のハーモニックなアイデアは信じられないほど素晴らしい。
そしてやはりもう一人、ジョージ・コールマンだ。多くの若いミュージシャンは彼のやっていることを注意深く聴くほどには頭が良くないようだ。ジョージは基本的にはハンク・モブレーに代表されるビバップの語法なんだけど、その更に上を行っているからね。
そして、極め付けを一枚挙げろというなら、ソニー・ロリンズの「A Night at the Village Vanguard」。まさにチャーリー・パーカーのテナー版だ。「ビバップのテナーサックスって何だ?」と聞かれたら、 答えはこれだよ。
しかし、となるとだな、結局他のものは全部忘れて「Charlie Parker with Strings」だけ聴いていればいいってことになるのさ(笑)。今まで挙げたプレイヤーっていうのは結局そこから来てるからね。
三木 なるほど、では現在の同世代、あるいは若い世代のテナー奏者はどうですか?
エリック えっ!? どういう意味だい? 僕が一番若いだろう(笑)? はは、そうだな、順不同で挙げていくよ、いいかい、順不同だよ(笑)。ジョシュア・レッドマン、クリス・ポッター、シェーマス・ブレイク、グラント・ス チュワート、クレイグ・ハンディー、誰か言い残した人はいるかな(笑)? 彼らの演奏はとても刺激になるよ。
三木 ではあなた自身、日々の練習はどのようにやって来たのですか? クラシックのエチュードなどもやりましたか?
エリック いや、まったくやっていない。ひょっとしたらハイスクールでちょっとやったかもしれないけど覚えていない。まあ、やったとしてもその程度だよ。
僕の練習方法は基本的にレコードから気に入ったフレーズをコピーして12キーに移調して練習するというものだ。偉大なプレイヤーのレコード、例えばコルト レーンの『ブルー・トレーン』のソロ、あれが僕のエチュードだよ。それ以上のものを必要と感じたことはない。僕は自分のウェブサイト http://www.ericalexanderjazz.com/ でオンラインレッスンをやっている。興味のある人は是非コンタクトしてほしい。
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