信木隆輝(以下、信木) まず演奏上、楽器にとって必要なオイルが不足していると、楽器の持つポテンシャルをフルに発揮できないんです。どんな状態になったらオイルを注すのかというのではなく、常にちゃんと注した状態でないといけません。本来、オイルはないといけないものです。注されている状態が普通なんです。ですから、こうなったときに注しましょうというのは楽器が良くない状態にあるので、支障が出たときに追加するというイメージを持っていただければいいと思います。
信木 オイルがないときは性能を落としている状態です。確かにオイルを注すと音質なども変わります。でもそれは、その楽器が持っているポテンシャルが発揮されたということです。実際には音質が変わっているわけではありません。 例えば、学校などで使われている楽器の中で、メンテナンスがあまりされていないものがあったとして、そんな楽器を使っている方はオイルを注すだけで劇的に変わったと思われることがあります。喜んでいただけるのは非常にうれしいのですが、実は元々の性能に戻っただけなんです。本来の状態になったということですね。
信木 金管楽器、木管楽器で変わってきますが、金管楽器では基本的にオイルが少なくなると、気密性が落ちていきます。動く部分(連結部など)は、すき間があるから動くわけで、気密性の低下を防ぐためにバルブオイルなどを注します。その気密性が低下すると息漏れが起こり、音が外れやすくなったり、正しい音程、響きで鳴ってくれません。 また、木管楽器ではキイオイルを使いますが、この役割はキイをスムーズに動かすことです。キイの連結部は金属同士が触れ合っていて、そこにすき間があるから動きます。そのすき間が広いと振動によって接触音、ガチャガチャという金属音が出るのですが、それを除去するため、さらに偏摩耗を起こさないためにオイルを使います。また、このオイルが入ることによって本来の性能が発揮されるわけですが、オイルの充填が不十分な楽器と比べると、響きが太くなったり、音の遠達性が上がったりします。別な領域で効力を持っているのがキイオイルの特徴なんです。ただ、これは好みの問題なので、吹奏感が軽いほうがいいという方はオイルの種類(粘度)を選ぶなどしたほうがいいと思います。
信木 これは、なかなか難しいと思います。 金管楽器、木管楽器問わず、息漏れは重大な問題です。木管楽器では、オイルの充填が不十分なことによって息漏れが発生することはないんですが、金管楽器に関しては長年使用されていて可動部の摩耗が進んだ楽器に関しては考えられます。しかし、目視によって確認はとても難しいので、管楽器修理技術者に相談されるのがよろしいでしょう。
信木 金管楽器、木管楽器すべて同じで、注意点は注す量、適量ですね。皆さまがイメージされている量、例えばトランペットにバルブオイルを注すときは意外と多めに注す方がいます。どんな問題が起こるかというと、必要量以上のものは外に出てしまいます。金管楽器ならバルブの下から落ちてきて手がベタベタになったりします。それを拭き取る作業は煩わしいですよね。また、それが残ってしまうとホコリを呼び寄せます。もし、注す量が多かったときは、必ず余分なものは拭き取ることを心がけましょう。
信木 オイルがこぼれたときなどに使うクロス、またはガーゼですね。ティッシュやタオルはダメです。なぜかというと、繊維が出てしまうからで、その繊維が楽器に付着してしまうのはよくないことです。繊維が連結部などに入り込むと動きに支障が出たりしますので、極力繊維の出ないものを使ってください。
信木 オイルは悪くなったら注すのではありません。常に注して充塡されているのが普通ということを常識だと考えることが大切です。 また、オイルを注すときは、必ず平行してクリーニングもすることが重要です。本来の性能を出すためには、古いオイル、悪いオイルは除去したあとに新しいオイルを注します。汚れている状態のオイルに新しいオイルを注しても、汚れたオイルは残ったままで意味がありません。また、クリーニングをしないままオイルを注すことによって汚れがはがれることがあります。ピストン楽器や、ロータリー楽器の可動部のすき間は髪の毛1本入っただけでも動きが悪くなるほどです。注油することにより汚れがはがれ可動部分に入ってしまうと、動きを良くしたいと思っているのに悪くしてしまう結果を招くので、注せばいいというものではなくてクリーニングも同時に行なわれてなければなりません。