◆フルート:槇本吉雄 Yoshio Makimoto
1969年国立音楽大学に入学、翌年東京文化会館オーディションに合格。1973年同大学を卒業、翌74年NHK洋楽オーディションに合格。1977年よりこれまで、数多くのリサイタルを開催。NHK・FM「午後のリサイタル」に度々出演し、その他内外の様々な演奏家とのコンサートも行なう。2006年、ニューヨークのカーネギーホール(リサイタルホール)にて演奏し好評を博す。長きに亘り東京吹奏楽団のフルート奏者を務め2010年から2013年度まで楽団長も兼務する。現在東京吹奏楽団相談役、一般社団法人日本フルート協会常任理事。
Q.ピッチが安定しない
ピッチが安定しなくて悩んでいます。高校の部活で吹いていますが、いつも音程が 悪いと言われます。なぜピッチが安定しないのでしょうか?解決法を教えてください。
A.まずは構え方から
フルートは、いろいろなことが複合的に重なると 歌口の部分が安定せず、ピッチが変わってしまいます。楽器の構えが安定していないと下唇に当てている歌口がグラグラ動いて、結果として音程が定まらないということがあります。 フルートの支点はだいたい左の中指辺りにあり ます。ですから例えば中音のドからレに移るときは、歌口が上に上がりやすく、逆にレからドにいくとき(左人差し指を押さえる)は歌口が下に動く傾 向があります。また始めて間もない人の中には中音のド#の時にフルートを落としてしまう人がいます。この音は右の小指だけ押さえる運指なのでキィが付いている手前のほうが下にガクッと動いてしまい ます。 以上のような状況を考えて、左手人差し指の第1関節 と第2関節の間にフルートを乗せるように意識すると上手くいきます。(写真)
右手の小指にも力を入れないようにします。
指に力が入り、楽器が踊るくらい歌口のところが動く人がいますので、以上のようなことに注意 してください。それから頭部管を1cm 以上抜いて吹いている人を見かけますが、良いことではありません。そういう人は左手の運指の音( ソ→ド#) の音程に気を付けましょう。全音階、半音階どちらも試してください。(譜例1、2)
【譜例1】
【譜例2】
(オクターブ上もチェックする)
半音上がるごとにどんどん高くなる人は、あごを引いてビームを下のほうへ意識してください。楽器が外に回っていませんか? 頭部管のホールも開け過ぎず、1/3くらいは下 唇で被せます。以上のようなことをヒントにしてフルートを構えてください。少しは改善できると思います。
Q.「ソノリテ」は何に役立つ?
「ソノリテ」を薦められました。が、吹いていてもつまらないです。もともと音を長く伸ばす練習が嫌いなのですが、ソノリテはどんなことに役立ちますか?
また、ソノリテをどうやって練習すればいいですか?
A.“ 音をよく響かせる” ために
確かに、ただやっているだけではつまらないです。無駄な時間に思えるかもしれません。まずソノリテの意味から考えてみましょう。フランス語 で「響き」のことです。音をよく響かせるようにソノリテを使います。ピアノですと、隣の音(半音)はほとんど音色の変化が分かりにくいです。ところがフルートの場合は、半音違っただけでもかなり音の変化を生じてしまうことがあります。
ソノリテでは音色の均一性を求めます。ソノリテは中音のシの音から始まりますが、初心者にとっては難しいかもしれませんので、オクターブ下の音からスタートしてもかまいません。
さて、ソノリテは4拍目のシから始まります。そして次の小節のラ#に向かいます。シからラ#への音の方向性を出します。次にブレスをしてラ#を吹きますが、ブレスをする前の音と同じ音色で吹き始め、次のラ♯につなぎます。一度に吹く音の数が増えていっても同じ音色で繋ぐ気持ちが大切です。
最低音まで進みますが、音色が変わったことが分からないようにします。(譜例3)
同じように上向音階も練習します。(譜例4)
【譜例3】
【譜例4】
ソノリテにはこれらのほかに、まだ重要なことが含まれています。< >の練習であったり、音のアタック、ディミヌエンドしながらスムーズな音の跳躍に関して、など、大変中身の濃いものです。
これらはかなりの時間を要することですので、余裕があったら目を通してください。響かない音は息が無駄になってカサカサした音になります。難しいことですが、倍音を多く含んだ音を目標とします。
以上がソノリテに関することです。
Q.ディミヌエンドが怖い!
音の大きさを変えるのが苦手です。とくにディミヌエンドが苦手で、音が小さくなればなるほど怖いので、舌で止めてしまいます。クレッシェンドやディミヌエンドの練習の仕方はありますか?
A.筋肉、息の量……鍛えましょう
う~ん、分かりますね。かなり技術が必要です。
ディミヌエンドしていくと途中でオクターブ下がったり、突然音が出なくなり、またホイッスルトーンになったりします。あまりの怖さに途中で舌で切ってしまう人をよく見かけます。演奏会で最後がppで音が消えてもまだ余韻が残っていて、しばらく拍手もない静かな時を経験したことがあるかと思います。皆さんに求めるのはこの時のように音の消失点が感じられるようにすることです。(図1)
また次のようにムラがあってはいけません。(図2)
ほとんどの場合、心理的に難しいと感じて唇の回りの筋肉が硬直して、ビームがつぶれたり、ビームが長くなってしまうことが原因です。
目はもちろん顔の上部にある筋肉まで上に持ち上げるようにするとビームがスムーズにポイントに当たります。それと同時に息の量を減らしながら、ビームの長さを短く(下唇をもっとポイントへ近付けるように)します。高音のppも同じです。その際、ビームの角度が急になると音程が下がるので、ビームを歌口の壁の上方へ少しずつ移動させていきます。
クレッシェンドはその逆で、息の量を増やして逆の動きをしていきます。細く鋭いビームではなく口の中を開けて、太い朗々とした大きな河の流れをイメージしてください。
口の中は共鳴箱です。舌で止めるということは弦楽器のフォルテ孔に蓋をすることと一緒で響きが止まります。
どちらも上顎が上がっていないとできません。今から鍛えましょう。
【図1(左) 図2(右)】
Q.これだけはやっておきたい!
フルートでこれだけは気をつけてほしい、この練習はしてほしいというものは?
A.呼吸、構え方……日常生活にもヒントあり
フルートに限らず、管楽器奏者にとって呼吸のことはとても重要なことで、ある意味“命”です。
吸気の時は肋骨が10cm くらいは広がります。体に力が入って肩が上がってしまうのはいけませ ん。横隔膜、お腹を動かしながら呼吸する練習を してください。「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」と連続して勢いよく吐く訓練をするのも効果があります。
ある程度吹けるようになったら、ハーモニックスの練習もしてください。(譜例5)
【譜例5】
この練習もフルートを演奏する人にとって、正しい奏法をしているかのチェックに役立ちます。上顎が下がってきてビームがつぶれると高い倍音は出ません。
また、次のことを何人かでやってみてください。10年フルートを吹いている人でも難しいです。
まずフルートを構えてもらいます。次にその構えているところからフルートを取ります。姿勢はそのままにしてもらいます。フルートを持たなくなった人は右手がだんだん左手、顔に近づいてきます。
あるいはフルートを持たずにフルートを持っている姿勢をしてもらいます。両手ともとんでもない位置にあるはずです。友だちは笑ってしまいますが、皆がそうなので安心してください。
実はフルートを構えた姿というのは、優雅に見えても意外に難しい姿勢を強いられています。練習する際は、フルートの構え方に注意を払ってください。
毎日挨拶をしっかりする、お腹から声を出す、等は、良いアンブッシュールを作るのに役立ちます。
最近レッスンしていて「さ行」、「た行」がはっきり聞き取れない人が多くなってきた感じがします。日常の生活の中にもヒントがあります。
1975年に出版されG. シェックが書いた「フルートとその音楽」があります。初めにページをめくると、フランスの有名な思想家・哲学者であったモンテスキューの言葉が引用されています。
「少しのことを知るために多くを学ばなければならない」
ドキッとしますが、根気よく練習しましょう!
Q.指が回るようになりたい
フルートは細かい音符が多くて、指が動きません。合奏でも指が回らなくてがっかりしてしまいます。スケールやアルペジオをたくさんやりなさい、と外部コーチから習いましたが、具体的にはどんな練習がいいでしょうか。
A.辛抱強く練習しましょう!
フルートで特に難しいのは中音のドとレ、レとミです。この2つはフルートに関わっている間、ずっと練習しないといけません。
ドレドレ、レミレミをリズムを変えて練習します。(譜例6)
【譜例6】
繋いでドレドレミレミレのようにもします。(譜例7)
【譜例7】
高音にいくとクロスの運指が多くもっと時間がかかります。吹奏楽で特に多いb3つの変ホ長調の次の運指 は最も難しい箇所の例です。 私も長くこの変ホ長調に付き合ってきましたが、実はフルートでは大変イヤな調なんです。(譜例8)
【譜例8】
アルペジオもスケールと同じように取り出して練習します。 アルペジオの練習は上記の変ホ長調のとりあえずⅠ度の和音(ドミソの和音、この場合はミb、ソ、シb)の練習をしましょう。(譜例9)
【譜例9】
「とりあえず」と書いたのは、曲はⅠ度の和音だけではないのと、途中で違う調が出てくるからです。分かりやすいのはマーチを演奏してもトリオで転調していますね。
よく「転ぶ」と表現しますが、すべての指の動きにムラがないようにします。ただやるのではなく、どこが転んでいるか把握しなければいけません。転ぶ箇所は人のやることですから、皆さん同じです。スケール、アルペジオ等は転ぶ箇所(部分)を練習してから、前後のパッセージを繋いで練習します。
すべてゆっくりから始めて、少しずつ早くしていきます。メトロノームを使って辛抱強く練習しましょう!