山元康生の吹奏楽トレーニング!│第7回
タンギングに効く薬
【譜例1】で良い音質で、どのタンギングでもG1、G2の音を立ち上げることができたら【譜例2】で音域を拡げていきます。
常にどのタンギングでも同じ音質であることを確認してください。
1と2は、右手で足部管の先を握って前に押してください。構えは常に安定させなければなりません。
3以降は右手を通常の位置に戻しますが、足部管を握るかわりに右手親指で管体の自分側をしっかりと押します。これは頭部管を顎に押しつけるのが目的ではなく、唇からエッヂまでの距離を近くするのが目的だと思ってください。
連載第3回以降、毎回のようにこの構えのことを書いています。
構えを安定させることは、そのくらい大切なのです。
ミシェル・デボスト氏(元・パリ管弦楽団首席、元・パリ音楽院教授)は1回のレッスンで10回ぐらい「安定させなさい」と言うこともありました。
音程を良くするには……「安定させなさい」
高い音域のピアニシモを吹くには……「安定させなさい」
低音域を豊かな響きにするには……「安定させなさい」
音の跳躍を上手に吹くには……「安定させなさい」などなど……
タンギングを上手に吹くには…………もちろん「安定させなさい」です!
落語に「葛根湯医者」という話があります。
「葛根湯」というのは漢方薬の名前で、風邪に有効な薬です。
しかし、その医者はお腹が痛い患者さんにも膝が痛い患者さんにも「葛根湯を飲みなさい」とすすめて「膝が痛い」という兄貴分に付き添ってきた人にも「葛根湯を飲みなさい」とすすめる話です。
「葛根湯医者」はとんでもないヤブ医者ですが、デボスト氏はその門下にエマニュエル・パユ氏(ベルリンフィル首席)、ヴァンサン・リュカ氏、ヴァンサンス=プラット・パリース氏(共にパリ管弦楽団首席)、クロード・ルフェーブル女史(パリオペラ座管弦楽団)など世界的に優秀なフルーティストたちが名を連ねています。
もちろん、それぞれのすばらしい才能もあるのですが、デボスト氏の指導も大きいのだと思います。
まさに「すばらしき葛根湯医者」です! デボスト氏が処方する「葛根湯」は本当に万能薬だと思います。
口の中を狭く……秘伝です!
【譜例3】では、少しタンギングの練習らしくなってきました。
発音の度に唇が動かないように注意するのは、これまでのエクササイズと同じです。タンギングの方法を意識するよりも、良い音質で吹くことを常に心がけてください。
常に口の中を狭くした方が鳴りが良くなります。試してください。
また、それは同時に構えを安定させることにつながり、さらに舌の挙動が小さくなるので、後ほど練習する速いタンギングにも有利に働きます。
「Fu」「Tu」「Ku」「Pe」どれでも良い音で吹けるようになったら【譜例3bis】に応用してみましょう。
「吹き方」よりも「響き」に集中すること
大変難しい低音域でのタンギングです。豊かな響きで、ハッキリとしたスタッカートで吹かなくてはなりません。
まず1はレガートで良く鳴った音で吹き、響きを記憶しておきます。「吹き方」でなく「響き」を記憶してください。
その後、同じ響きで2を吹きます。
キィは絶対に叩いてはいけません。
これができるようになれば、プロコフィエフのソナタの難所も、意外と簡単に攻略できます。
この「葛根湯」は漢方ですが、かなり速効性があります!