フルート記事 神田勇哉、演奏の楽しみと極意
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Special Interview & 演奏アドバイス『Flute on Ice vol.2』

神田勇哉、演奏の楽しみと極意

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近年ますます盛り上がりを見せるフィギュアスケート。そこで使われる音楽は、正統派クラシック、オペラ、バレエ音楽、映画音楽など、バラエティに富んでいる。曲集「Flute on Ice vol.2 ~氷上の名曲をフルートで~」では、付属CDの参考演奏を神田勇哉さんにお願い、インタビューでは演奏アドバイスを伺った。

作品の世界を理解したら、演奏が楽しくなる

「ユーリ!!! on ICE」もQUEENも…

神田
フィギュアスケートの振り付けというのは、バレエにつながっている部分が大きいと思います。僕が所属している東フィルも、バレエの公演で演奏する機会がたくさんありますから、そういう意味では親しみを感じるところがあります。あ、それから、TVアニメの「ユーリ!!! on ICE」は全部見ましたし、劇伴*にも参加したんです。 *TVドラマや映画、演劇、アニメなどで流れる伴奏音楽のこと。
そうだったんですか。「ユーリ!!! on ICE」はTVでは深夜放送だったにもかかわらず、人気を博して話題になりました。映画化も予定されているようですね。
神田
音楽を坂東祐大君という藝大時代の後輩が作っていて(註:「ユーリ!!! on ICE」では「松司馬拓」名義)、多久(潤一朗)さんが劇伴のフルートを担当していて。それでフルートが2本必要なときに、僕も参加させてもらったんです。そのときに、フィギュアのことも少し学びました。グランプリとかグランプリファイナルとかの説明も全部出てきて……あれは楽しかったです。
じゃあ、そのときにフィギュアのことは結構勉強されたんですね。 フィギュアに使われる音楽はどんどん進化していて、最近は特にとても多彩になっています。演技をする選手のほうも表現力の引き出しをたくさん持つ必要があると思いますが、そういう意味ではオーケストラの奏者に似ているところがあったりするでしょうか?
神田
クラシックとポップスでやっぱりリズムの取り方が違いますから、盛り上げどころも変わるでしょうし、音楽の幅が広がったことで演技の自由度もきっと増したと思いますね。あとは踊りの振り付けって、結構自由で複雑だったりするので、選択肢が広がるとその分大変なんじゃないかな、と……想像ですが。 クラシック音楽は時代を経てずっと残ってきたものの良さがありますが、ポップスでも長く残ってきたものには芸術的な素晴らしさがあります。先日QUEENの音楽を演奏する「クイーン シンフォニック」という公演があったんですが、『ボヘミアン・ラプソディ』をはじめ、演奏しながら「なんていい曲なんだろう」と感動していました。フィギュアでも、たとえば“情熱の愛”を表現するのに、『カルメン』とかではなくアメリカのポップスが使われていたりするのはちょっと意表を突かれるような感じがありますが、根底に流れているものは案外共通しているのかもしれません。
以前インタビューさせていただいたときに、仕事ではなく聴く側としてコンサートに行くときも、プログラムの曲をすごく練習して“準備”をするという話をされていて、それがとても印象に残っています。神田さんといえば、という感じで。「しっかり準備をすればするほど音楽を楽しめる」という話でした。QUEENの公演のときも、何かそんなことが……?
神田
ありました。『Let Us Cling Together』という、QUEENが日本語で歌っている曲があって(註:『Teo Torriatte』というタイトルも付いている)。その日本語の歌詞を印刷して周りに配って……でも僕しか歌っていなかったという(笑)。準備して参加できるところは参加したほうが、絶対楽しいですから。

作品の世界を理解したら、演奏が楽しくなる

今回の「Flute on Ice vol.2」でも、演奏者の“学びどころ”はたくさんありそうですね。
神田
そうですね。「カルメン」の『ハバネラ』とか、「ラ・ボエーム」の『私が街を歩けば』でも、どの場面でこの音楽が出てくるのか、そういうことは最低限知っておいてほしいですね。節回しを歌詞に当てはめて、「ここはこう言ってるのか」ということがわかれば最高ですが、それは本当に字幕付きのオペラをDVDで見ないとわからないと思うので……(笑)。
歌ものは歌を理解しておきたい、と。
神田
オペラなら、そのストーリーも理解しているに越したことはないですけれどね。「ラ・ボエーム」なんて、面白いですよ。『私が街を歩けば』を歌うムゼッタという女性が、前半では性格に難ありといった感じで出てくるんですが、後半になったらずっと病人に付き添って看病するようないい人になっている。キャラクターとして、ちょっと破綻してるんですよ。 「カルメン」も、そういう意味ではよくわからないところもあったりして、そこも含めて面白い。音楽も、壮大な曲なのに劇の内容的には単にカルメンが女性の寮で喧嘩してるだけっていうものがあったり(笑)。『花の歌』という素晴らしく美しいアリアをドン・ホセが歌ってカルメンを誘う場面では、カルメンが即座にそれを断る。「いや、ムリ」って(笑)。そもそもカルメンよりミカエラのほうがどう見ても感じの良い子なのに、どうしてカルメンにいっちゃうのかな、というのもありますし……。
オペラってそういうところがありますね。プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」でも、『私のお父さん』なんて本当に素敵な曲だけれど、あまり大したことを歌っていなかったり。
神田
しかも、それを歌う娘さんがそれほどストーリーに関係ないという(笑)。「お願いお父さん、2人の結婚を認めて。じゃないと川へ身投げするわ」という内容だけれど、筋書きには何も書かれてない(笑)。すごく不思議ですよね。でもそれがアリアというひとつのジャンル。寄り道して、クローズアップして話が元に戻ってきて。今風に言えば「スピンオフ」かな……一瞬だけこっちにクローズアップして、キャラクターが垣間見えるという世界です。そういうことまで理解していたら、音楽に深みが出るでしょうし、何より演奏していて楽しいと思いますよ。
それでは、かなり回り回って来ましたが……「Flute on Ice vol.2」の収録曲について、演奏アドバイスを伺いたいと思います! 

3ページ目
・「絶対に手を離すな!」……劇的なストーリーを音楽に
・CDの伴奏に合わせる良い方法とは?

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