フルート記事 山元康生の吹奏楽トレーニング!│第9回
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山元康生の吹奏楽トレーニング!│第9回

LESSON

一昨年に吹奏楽コンクール中止が決定した時から始まったこの連載も、いよいよ今回が最終回となります。
今回は、今まで掲載した数々の練習方法を、実際の曲で、どのように応用して練習するかを説明していきます。

練習の方法を知らなかった高校生の私

私は高校1年生の夏、カール・シュターミッツの『協奏曲ト長調』の第1楽章を練習していましたが、インターナショナル版の第2ページ目の下半分にある4小節が上手く吹けませんでした(譜例1)。
そしてその頃習っていた先生に、すごく叱られて「そこだけ取り出して100回吹いたの!」「100回吹いて出来なければ200回吹きなさい!」と言われました。
帰宅してから仕方なく、この4小節を最初から楽譜通りの形で何回も吹きました。
それでも途中で止まったり、音を間違えたり、リズムが不規則になったりしていたのだろうと思います。
何回吹いても、どうしても上手く吹けませんでした。
今でも生徒がこの曲をレッスンに持ってくると、このことを思い出します。
今回は「高校生の山元君は、本当はどのように練習すべきだったのか」というところからスタートしたいと思います。

【譜例1】
シュターミッツ作曲「協奏曲ト⻑調」第1楽章より
 

一段ずつレベルアップするための練習

【譜例1】には主に3つの難しさがあります。

①4小節にわたって16分音符が続く長いパッセージである。
②テンポが速い(♩=120程度)ので指が難しい。
③いろいろな種類のスラーやスタッカートなど、いわゆるアーティキュレーションが難しい。

当時の私は、この3つの難しさを一度に練習していたわけです。
たとえて言うなら、目の前にある3段の階段を一歩で上がろうとしているようなものです。
当然、何回も失敗して、なかなか一番上まで到達できませんね。
3段を一歩で上がらなくても良いのです。 1段ずつ上がったほうが、はるかに早く到達できます。

では、1段ずつ上がる方法を【譜例2】で説明していきます。

【譜例2】
シュターミッツ作曲「協奏曲ト⻑調」第1楽章より
 

4小節は長いので1では2小節に分割します。
そしてアーティキュレーションの難しさは後回しにして全体を長いスラーで吹きます。
半分の長さになり、タンギングをしなくても良いと、ずいぶん楽になりますね。
しかし2小節でも長すぎるかもしれません。
さらに1小節に分割しましょう。
この場合、厳密な1小節ではなく、次の小節の最初の音符まで吹いて、次の小節の練習に連結できるようにしておきます。
そして23ではリズム変奏を応用して練習します。
【譜例3】にリズム変奏の一例を示しておきます。

【譜例3】
 

この場合は4つの音にリズムを付けるので「for 4 notes」と書かれた段のリズム変奏5種類を応用します。
それぞれのリズムで4回以上吹いてから次のリズムパターンに進んでください。
他にも4 5のようなリズム変奏が可能です。

この2小節は6のようなメロディラインで構成されています。
5までで指の問題を片付けてから7 8のようにアクセントを付けてメロディラインを目立たせるリズム練習をするとアーティキュレーションが鮮やかになります。

2小節目の最初の2拍のような3度の音符2つずつを連結したスラーは9のようになりやすいです。
たぶん高校生の頃の私は、このように「すべっている状態」だったのだと思います。
この解決方法は、まず10のように、メロディラインでもある、それぞれのスラーの最初の音を大きめ長めに吹いて2つ目の音を弱く吹くようにします。
それぞれのスラーを小さなディミヌエンドで吹くわけですが、これが結構難しいので11で確認をします。
それぞれの部分が丁寧に練習できたら楽譜通りの形で終わりから「さかのぼり練習」をします12-112-4
頭から練習すると、先に行くほど心細くなってしまいますが、「さかのぼり練習」をしておくと最後の方を、たくさんの回数練習しているので、先に行くほど自信を持って吹くことができます。
同様に後半2小節も丁寧に練習して前半から繋いで完成となります。

>>次のページへ続く


 
山元康生

山元康生│Yasuo Yamamoto
1980 年、東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。同年6月渡米し、ニューヨークでのジュリアス・ベーカー氏のマスタークラスに参加し、ヘインズ賞を受賞。その後2ヵ月間にわたってベーカー氏に師事。1982年、宮城フィルハーモニー管弦楽団(現・仙台フィル)に入団。1991年より、パリ・エコールノルマル音楽院に1年間学ぶ。1997年から度々韓国に招かれマスタークラスやコンサートを行なう。また、2006年にはギリシャとブルガリアにてマスタークラスとコンサートを行なう。2002年、Shabt Inspiration国際コンクール(カザフスタン)、2004年、Yejin音楽コンクール(韓国)、仙台フルートコンクールに審査員として招待される。

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