山元康生の吹奏楽トレーニング!│第9回
たくさんの連符は分割して練習する
最後に、たくさんの連符で書かれたパッセージの練習方法を示しておきます。
たくさんの連符は最多でも6つまでの連符に分けて練習しなければなりません。
【譜例12】のシャミナードでは2つのグループの15連符が出てきます。
シャミナード作曲「コンチェルティーノ」より
1のように5連符×3と考えて2のようにリズム練習することができますが、そのように単純に数学的に割ってしまうと実際には難しい事があります。
3のような分割の方法が音楽としてスッキリしますね。
4拍子の曲で、ここでは5拍子になってしまいますが、伴奏がないカデンツァ風のところなので問題ありません。
最終的には、このリズムを感じさせない名人芸のように吹きます。
4はリズム練習する場合の一例です。
【譜例13】のカゼッラには20連符が出てきます。
カゼッラ作曲「シシリエンヌとビュルレスク」より
どのように分割練習しましょうか?
この部分は8分の12拍子ですので大きな1拍である付点4分音符を3分割するのが音楽的に良いと思います。
1をご覧ください。
このメロディでは7+6+7に3分割するのが機能的だと思います。
とても速くて難しいので2のように分割リズム練習してから結合しましょう。
連載を終えるにあたって
これまで全9回にわたって練習の方法を連載してきました。
吹奏楽のレパートリーは比較的新しく、著作権の関係で譜例に採用することができませんでした。
しかし困難なパッセージに出会った時には、難しい原因を明らかにして、これまでに掲載してきた「分割→結合練習」「折り返し練習」「さかのぼり練習」「リズム練習」を応用すると短い時間で解決出来ると思います。
第1回から、この連載を読んで実際に練習してくださった方々には、上達に本当に必要なのは「努力」や「根性」ではなく「適切な練習方法を継続して行なうこと」だと理解していただけたと思います。
この連載を読んでくださっているフルートの先生方に、3つお願いがあります。
まず、レッスンで上手く吹けない生徒さんを決して叱らないでください。
上手く吹けないから習いに来ているのです。
私が中高生の頃は「ちゃんと練習してきなさい!」「○○と✕✕ができてない! 練習し直してきなさい!」「もっときれいな音で吹きなさい」「もっと音楽的に吹きなさい」「そんなこともできないでG大を受験するの?!」とよく言われました。しまいには「人間やめたら!?」とまで言われました。
その頃の私は「レッスンというものは、こういうものだ。ちゃんと吹けてないのだから、こう言われても仕方ない」と思っていました。
もっと昔の先生の中には、ピアノの蓋をバンッと閉じて怒鳴りつけたり、譜面台を蹴り倒したり、生徒の楽譜を庭に放り投げたりした先生がいたというすごい話を聞いたことがあります。
怒鳴りつけたり、譜面台を蹴り倒すと生徒の指がよく動いたり、音が良くなったりするのでしょうか?
それよりも上手く吹けない原因を明らかにして、それを解決する方法を教えるべきではないでしょうか?
私は上記の昔の先生方が悪かったとは思っていません。
良い教育や情報がなかった「時代」が悪かったのだと思います。
私はG大に入学して専攻実技担当の小泉剛先生(当時、読売日本交響楽団首席)から、上手く吹けない原因と、その解決方法、練習方法を初めて学びました。
そして才能に関係なく上達する方法があることを初めて知りました。
パリで習った、レイモン・ギオー先生も同じです。
曲やエチュードを、音楽として魅力的に演奏するのに必要な技術や表現方法を教えてくださいました。
フルートの指導者は「一所懸命に練習しなさい」「もっとたくさん練習しなさい」と教えるだけではダメなのです。
2つ目は、教えるときは教えるプロですので、常に教える方法を高めるように心がけてください。
いわゆる「企業努力」と言われるものです。
「自分の先生からこう習ったので自分の生徒にも同じように教える」では進歩がありません。
パリ音楽院ではどう教えているのか?、ジュリアード音楽院では?、ロイヤルアカデミーでは?
他の先生は、どう教えているのか?
常に、より良い教え方はないか研究してください。
YouTubeでも素晴らしいレッスンやレクチャーを見ることができます。
公開レッスンがあれば聴講して、大切なポイントを五線ノートにメモして、帰宅してから受講生と同じように吹いてみると大変勉強になります。
3つ目は、良い教材がないか、常にアンテナを張ってください。
「自分は○○の曲を△△版で練習したので生徒にも無条件で同じ版を使わせる」ということはやめてください。
自分が練習した頃から何年かの間に、より良い版が出版されているかもしれません。
また、タファネル=ゴーベールの「17の日課練習」や、マルセル・モイーズの「ソノリテについて」を必要十分、バイブルのように言う先生方がいますが、それにも問題があると思います。
ゴーベールの生徒のモイーズには「日課練習」「480の音階とアルペジオ」などの技術練習の著書があります。
タファネル=ゴーベールが完璧なエクササイズであれば、モイーズが新たな技術練習を出版する必要はなかったはずです。
また、モイーズ以降にもタッシナーリ、エリシェ、ベーカー、ギルバート、デボスト、ワイ、ロビソンなど数々の名フルーティスト、名教師が日課練習についての著書を出版しています。
著書はなくても、私のパリでの恩師、ギオー先生は彼独自のアイデアで、彼の師であるモイーズの「ソノリテ」や「480の音階とアルペジオ」に変奏を加えて生徒に与えていました。
そして、それらの変奏には必ず目的がありました。
レッスンの時にギオー先生は「エコール・モイーズ(モイーズ派)も進化するのだよ」と語っていました。
モイーズ自身、著書「アンブシュア、イントネーション、ヴィブラートの練習(邦題) Comment j'ai pu maintenir ma forme (原題)私は、いかにして調子を維持したか」の中で「ソノリテ」のロングトーンの変奏を示しています。
昔のG大には「ソノリテ」をバイブルのように言う先生がいましたが、実はその頃から「半音ずつ下る一方通行のロングトーンは良くない」とG大の学生の間ではささやかれていたそうです。
ゴールウェイ氏はYouTubeの動画で「ソノリテ」のロングトーンは良くないことを指摘した上で、それに代わる彼独自の方法を教えています。
練習の方法に「絶対」や「決定版」はありません。
ある生徒に合う練習方法が他の生徒に合うとは限りません。
一生勉強や研究を続けて行く事になります。
最後に
一昨年から始まったこの連載に、吹奏楽指導者の先生方から「このような基礎奏法を詳しく示した教則本は出版されていないので、フルートパートを指導するのに大変助かる」と高い評価や励ましを戴き最終回までたどり着くことができました。
私自身、主にフランスで学んだ技術を項目別に整理できて大きな収穫がありました。
このような素晴らしい機会を与えてくださったアルソ出版様、「ザ・フルート」編集部様、とりわけ毎回、丁寧な校正に加えて適切なサブタイトルを付けてくださったり、私が入力したフィナーレファイルを適切にレイアウトしてくださったスタッフの皆様に、この場をお借りして心から御礼を申し上げます。
追記
高い評価を戴いた一方「連載記事の譜例をプリントアウトしたいが、うまく印刷できない」という意見が寄せられましたので、A4用紙に印刷できるように印刷用の譜例を載せておきます。吹奏楽によく使われる調性以外も載せているので全38ページあります。必要な物を印刷して持ち歩き、毎日の練習に役立ててください。